運航委託契約により船舶の運航を受託した者が、船舶を自己の業務の中に一体的に従属させ、船内事故の被害者で直接の契約関係にない船長に対し指揮監督権を行使する立場にあり、船長かち実質的に労務の供給を受けていたという事実関係の下においては、右受託者は、船長に対し信義則上の安全配慮義務を負う。
運航委託契約により船舶の運航を受託した者につき船長に対する安全配慮義務が認められた事例
民法1条2項,民法415条,民法643条,民法656条
判旨
船舶の運航委託契約において、受託者が船舶を自己の業務の中に一体的に従属させ、船長に対し指揮監督権を行使する立場にあり、実質的に労務の供給を受ける関係にある場合には、信義則上、安全配慮義務を負う。
問題の所在(論点)
直接の雇用契約関係にない運航委託契約の受託者(上告人)と、当該船舶の船長との間において、信義則上の安全配慮義務が成立するか。
規範
ある法律関係に基づいて、一方が他方に対して実質的に労務の供給を受ける関係にある場合、その一方は、信義則上の付随的義務として、他方がその労務を提供するにあたって生命および健康等に危害が及ばないよう必要な配慮をなすべき義務(安全配慮義務)を負う。この義務は、直接の雇用契約が存在しない場合であっても、労務供給の態様が実質的に指揮監督下にあると認められる法律関係があれば認められる。
重要事実
上告人は、船舶の運航委託契約の受託者であった。上告人は本件船舶を自己の業務の中に一体的に従属させて運用していた。被害者である本件船舶の船長に対し、上告人は指揮監督権を行使する立場にあり、船長から実質的に労務の供給を受ける関係にあった。その過程で本件事故が発生し、船長が被害を被った。
あてはめ
上告人は、本件船舶を自己の業務の中に「一体的に従属」させており、組織的な管理下に置いていたといえる。また、船長に対して「指揮監督権を行使する立場」にあり、具体的な作業内容や態様をコントロールし得る関係にあった。これにより、船長から「実質的に労務の供給を受ける関係」が形成されている。このような支配的・管理的な実態がある以上、信義則上、船長の生命・身体の安全に配慮すべき特別な社会的接触関係が認められる。
結論
上告人は、本件船舶の船長に対し、信義則上の安全配慮義務を負う。したがって、原審の義務違反を肯定した判断は正当である。
実務上の射程
雇用契約に準ずる実質的な指揮監督関係(実質的雇用関係)がある場合には、契約の形式(委託、請負等)を問わず安全配慮義務の主体となり得ることを示した。答案上は、下請企業の労働者が元請企業の管理下で作業する事案や、出向・派遣等の場面において安全配慮義務を基礎づける際の決定的な論拠として活用できる。
事件番号: 平成1(オ)516 / 裁判年月日: 平成3年4月11日 / 結論: 棄却
下請企業の労働者が元請企業の作業場で労務の提供をするに当たり、元請企業の管理する設備工具等を用い、事実上元請企業の指揮監督を受けて稼働し、その作業内容も元請企業の従業員とほとんど同じであったなど原判示の事実関係の下においては、元請企業は、信義則上、右労働者に対し安全配慮義務を負う。