船舶の使用に関する一切の命令指示等の権限は定期傭船者に属すること、定額の傭船料を支払うことなどの約定がありながら、定額の傭船料は実際に支払われたことがなく、定期傭船者には船長の任免権があるとはいえない場合であつても、船舶が専属的に定期傭船者営業の運送に使用され、その煙突には定期傭船者のマークが表示されており、その運航については、定期傭船者が日常的に具体的な指示命令を発していたなど判示の事実関係があるときは、定期傭船者は、船舶の航行の過失による衝突の損害について、商法七〇四条一項の類推適用による船舶所有者と同一の損害賠償義務を負う。
定期傭船者が船舶の衝突による損害賠償義務を負うとされた事例
商法690条,商法704条1項
判旨
定期傭船契約の傭船者が、船舶を自己の企業組織の一部として指揮監督し、継続的かつ排他的・独占的に使用して事業に従事させている場合、商法704条1項を類推適用し、船舶所有者と同様の損害賠償義務(同法690条)を負う。
問題の所在(論点)
定期傭船契約に基づき船舶を使用する者が、商法704条1項(船舶貸借の規定)の類推適用により、船長等の過失による不法行為について船舶所有者と同一の損害賠償責任(商法690条)を負うか。
規範
定期傭船者が船舶の航行による過失につき損害賠償義務を負うかについては、成文法に明文の規定がないため、当該契約の約定及び実体的側面に照らして検討すべきである。具体的には、傭船者が船舶を自己の企業組織の一部として日常的に指揮監督し、継続的かつ排他的・独占的に使用して事業に従事させていることで、船舶所有者と同様の企業主体としての経済的実体を有すると認められる場合には、商法704条1項を類推適用し、同法690条の船舶所有者と同一の責任を負うと解するのが相当である。
重要事実
定期傭船者である上告人は、船舶所有者との間で「定期傭船契約」を締結した。契約上、船舶の使用に関する一切の命令指示権は上告人に属し、各船舶は専属的に上告人の営業に従事していた。船体(煙突)には上告人のマークが表示され、運航について上告人が日常的に具体的な指示命令を行っていた。一方で、燃料費は船舶所有者が負担し、上告人に船長の任免権はなく、直接の占有も有していなかった。この状況下で、船長らの過失により被上告人所有の掃海艇を損傷させる衝突事故が発生した。
あてはめ
上告人は、契約により船舶の使用に関する一切の権限を有し、各船舶を専属的に営業に従事させていた。燃料費の負担や任免権の欠如といった要素はあるものの、自己のマークを掲げた船舶に対し日常的に具体的な指示命令を発していた事実に照らせば、上告人は各船舶を自己の企業組織の一部として指揮監督し、継続的・排他的・独占的に使用していたといえる。したがって、上告人は船舶所有者と同様の企業主体としての経済的実体を有していたと評価される。
結論
上告人は、商法704条1項の類推適用により、本件衝突事故によって生じた損害について、同法690条に基づき船舶所有者と同一の損害賠償義務を負う。
実務上の射程
定期傭船者が船舶所有者責任を負うための要件として、運航支配(指揮監督)と運航利益(排他的・独占的使用)の帰属を重視する。単なる船舶の利用にとどまらず、企業組織への組み込みという「経済的実体」の有無が判断の分かれ目となる。商法改正後も、運航管理者の責任を論ずる際の重要な判断枠組みとして機能する。
事件番号: 昭和62(オ)1047 / 裁判年月日: 平成2年11月8日 / 結論: 棄却
運航委託契約により船舶の運航を受託した者が、船舶を自己の業務の中に一体的に従属させ、船内事故の被害者で直接の契約関係にない船長に対し指揮監督権を行使する立場にあり、船長かち実質的に労務の供給を受けていたという事実関係の下においては、右受託者は、船長に対し信義則上の安全配慮義務を負う。