判旨
船舶の接触自体について船長に責任がない場合であっても、乗客の傷害との関係で船長に過失が認められる限り、民法上の不法行為責任を免れない。また、被害者に過失がある場合でも、過失相殺の対象となるにとどまり、船長の定位置義務や過失責任そのものが当然に否定されるわけではない。
問題の所在(論点)
船舶の接触事故において、接触そのものに船長の責任がない場合、あるいは被害者に過失がある場合に、船長の乗客に対する過失責任が否定されるか。
規範
不法行為法(民法709条)における過失の成否は、結果(本件では乗客の傷害)に対する予見可能性及び回避義務の有無によって判断される。船舶の接触責任の所在と乗客の傷害に対する過失責任は別個に検討されるべきであり、また、被害者側の過失は過失相殺(民法722条2項)の問題を生じさせるにすぎず、加害者の義務違反(船長の定位置義務等)を当然に免脱させるものではない。
重要事実
上告人が船長を務めるD丸と、他船であるE丸が接触し、乗客である被上告人が傷害を負った。上告人は、船舶の接触自体については自らに責任がないこと、及び被上告人側にも過失があったことを理由に、自らの過失責任を否定して争った。
あてはめ
本件において問題となるのは、船舶の接触そのものの責任ではなく、被上告人の傷害に対する過失の有無である。原審が被上告人の傷害について上告人に過失があると判断した以上、接触自体の責任がどこにあるかは直ちに結論を左右しない。また、仮に被上告人に過失があったとしても、それは過失相殺の問題にすぎず、船長としての定位置義務や過失責任を直ちに免じさせる理由にはならないと解される。
結論
船長である上告人の、被上告人の傷害に対する過失責任は認められ、損害賠償義務を負う。
実務上の射程
事故の原因と結果(人身損害)に対する過失を切り離して検討する実務上の視点を示す。特に、船舶や車両の衝突責任がない=人身損害の責任もない、という論理を否定する際に有用である。また、被害者の過失が加害者の注意義務違反を消滅させるものではないことを明示する際に引用できる。
事件番号: 昭和28(オ)158 / 裁判年月日: 昭和30年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が専門家等からの具体的な危険の指摘を無視して行為を強行し、その結果として履行不能が生じた場合、当該債務者には不注意により危険を認識しなかった過失があるものとして、債務不履行責任(帰責事由)が認められる。 第1 事案の概要:上告人は、被上告会社の代表者等から、天候や船の構造等の関係上、当日に船…