他の船舶との衝突事故により沈没した船の所有者が、右沈没船を除去すべき法令上の義務を履行することによつて被つた損害につき、相手方船舶の所有者等又は船長等に対して有する賠償請求権は、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五七年法律第五四号による改正前のもの)三条一項二号所定の同項一号に掲げる物及び当該船舶以外の物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権に該当する。
他の船舶との衝突事故により沈没した船の所有者が右沈没船を除去すべき法令上の義務を履行することによつて被つた損害の賠償請求権と船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和五七年法律第五四号による改正前のもの)三条一項二号所定の制限債権
船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和57年法律第54号による改正前のもの)3条1項,船舶の所有者等の責任の制限に関する法律3条1項1号
判旨
沈没船の所有者が法令上の義務に基づき支出した沈没船除去費用等の損害賠償請求権は、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律3条1項2号の制限債権に該当する。また、当該債権は日本が国際条約に基づき留保した「難破物除去に関する債権」には当たるものではなく、加害船舶側は責任制限を主張できる。
問題の所在(論点)
衝突事故により沈没した船舶の所有者が、法令上の義務に基づき支出した沈没船除去費用相当額の損害賠償請求権は、法3条1項2号の制限債権に該当するか。特に、日本が「海上航行船舶の所有者の責任の制限に関する国際条約」に基づき留保し、制限債権から除外した「難破物の除去に関する法令によつて課される義務又は責任を原因として生ずる債権」に該当し、責任制限が否定されるべきか。
規範
1. 他の船舶との衝突により沈没した船の所有者が、法令上の義務を履行するために支出した費用(沈没船除去費用等)は、衝突事故と相当因果関係のある損害である。2. 右損害の賠償請求権は、船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(以下「法」)3条1項2号所定の「物の滅失若しくは損傷による損害に基づく債権」に該当し、責任制限の対象となる。3. 条約一条(1)(c)が定める「難破物の除去に関する法令による義務」は、責任を制限しようとする船舶所有者自身が負う義務を指す。したがって、被害者である他船の所有者が負った除去義務の履行による損害について加害者へ賠償を求める債権は、これに該当せず、日本が留保した非制限債権(制限できない債権)には当たらない。
重要事実
上告人所有のD丸と被上告会社所有のE丸が、E丸船長の過失により衝突し、D丸が沈没した。被上告会社は法に基づき責任制限手続を開始した。一方、上告人は港則法等に基づき行政庁から沈没船の撤去命令を受け、サルベージ会社に依頼して除去費用3900万円等を支出した。上告人は被上告人らに対し、右費用等の損害賠償を請求したが、被上告人らはこれが法の制限債権に当たると主張して責任制限を争った。上告人は、本件債権は日本が条約上留保した「難破物除去に関する債権」であり、責任制限の対象外であると反論した。
あてはめ
1. 本件除去費用等は衝突事故と相当因果関係があり、損害賠償請求権(商法690条、民法709条)を構成するが、これは法3条1項2号の制限債権に該当する。2. 条約の留保趣旨は、難破した船舶所有者が自発的に除去しない方が有利になる事態(代執行費用が制限債権化すること)を避ける点にある。3. 本件債権は、責任制限を享受する加害者側ではなく、被害者側が負った義務の履行に伴う損害賠償請求である。これは条約一条(1)(b)の「財産の滅失若しくは損傷を原因として生ずる債権」に準ずるものであり、日本が留保した「難破物除去に関する債権」には含まれない。したがって、加害者は本件債権について法に基づき責任を制限できる。
結論
沈没船除去費用等の損害賠償請求権は、法3条1項2号の制限債権に該当し、被上告人らはその責任を制限することができる。
実務上の射程
船舶衝突事故において被害船側が行政上の義務として支出した残骸撤去費用が、加害船側の責任制限の枠内に収まることを明示した。実務上、大規模なサルベージ費用が発生した場合でも、加害者が責任制限手続を履践していれば、制限額(責任限度額)を超えた賠償を免れることを肯定する重要な規範である。
事件番号: 昭和50(オ)1190 / 裁判年月日: 昭和51年11月25日 / 結論: 棄却
港湾運送契約の締結に際し、荷送人が、貨物を海上保険に付したうえ、運送人との間で港湾運送約款に基づき「運送人は、保険に付された危険によつて生じた貨物の滅失等については、損害賠償の責めに任じない。」旨の合意をした場合でも、特段の事情のない限り、被保険者である荷送人は、保険金額の範囲内の損害につき、貨物滅失に基づく運送人に対…