港湾運送契約の締結に際し、荷送人が、貨物を海上保険に付したうえ、運送人との間で港湾運送約款に基づき「運送人は、保険に付された危険によつて生じた貨物の滅失等については、損害賠償の責めに任じない。」旨の合意をした場合でも、特段の事情のない限り、被保険者である荷送人は、保険金額の範囲内の損害につき、貨物滅失に基づく運送人に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄したものではないと解すべきである。
「運送人は保険に付された危険によつて生じた貨物の滅失等については損害賠償の責めに任じない」旨の港湾運送約款の解釈
民法91条,民法519条,商法569条,商法577条,商法581条,商法629条,商法662条
判旨
運送約款中の「保険に付された貨物の損害につき賠償責任を負わない」旨の規定は、特段の事情のない限り、損害賠償請求権を予め放棄する趣旨ではなく、保険金額を超える損害部分の賠償請求のみを放棄する趣旨と解すべきである。したがって、保険者は保険金支払により、商法上の保険代位に基づき運送人へ損害賠償請求が可能である。
問題の所在(論点)
運送約款における「保険に付された損害を免責する」旨の規定(いわゆる保険条項)の合理的な解釈と、保険者による保険代位の可否が問題となる。
規範
運送約款において「保険に付された危険によって生じた貨物の滅失等については損害賠償の責めに任じない」旨が定められている場合、これを賠償請求権の事前放棄と解すると、被保険者は保険金も賠償金も得られない極めて不利益な結果を招く。かかる結果を甘受することは経験則上ありえないため、特段の事情がない限り、当該規定は「保険金額を超える損害部分」の賠償請求のみを放棄する趣旨と解するのが相当である。
重要事実
荷主D電機は、港湾運送業者である上告人と運送契約を締結した。同契約に適用される港湾運送約款20条には「当社は、保険に付された危険によって生じた貨物の滅失等については、損害賠償の責めに任じない」との免責条項があった。その後、運送品の梱包が上告人の被用者(船長)の重大な過失により紛失した。D電機に保険金を支払った保険者(被上告人)が、商法662条(現行商法662条・保険法25条参照)に基づき、上告人に対して損害賠償を請求したところ、上告人は右免責条項に基づき請求権は消滅していると抗弁した。
あてはめ
本件約款20条を、損害賠償請求権を全面的に放棄する趣旨と解せば、D電機は上告人から賠償を受けられないだけでなく、保険者からも(代位可能な請求権が存在しないことを理由に)保険金支払を拒絶される等、極めて不都合な結果となる。このような不利益をあえて甘受する特段の事情は本件では認められない。よって、同条は保険金額を超える超過損害の請求のみを放棄する趣旨に限定して解釈される。その結果、保険金額の範囲内ではD電機の賠償請求権は消滅しておらず、保険金支払に伴い被上告人へ適法に代位移転したといえる。
結論
被上告人(保険者)は、約款20条の規定にかかわらず、D電機が上告人に対して有する損害賠償請求権を保険代位により取得し、行使することができる。
実務上の射程
運送約款における免責条項の解釈に関する重要判例である。契約当事者の合理的な意思解釈として、一見すると完全免責に見える文言であっても、保険代位を封じるような著しく不合理な結果を招く場合には、限定解釈(保険超過額のみの免責)を行うべきという手法を提示している。答案上は、免責条項の抗弁に対する再反論として、合理的意思解釈の論理を用いる際に参照する。
事件番号: 昭和45(オ)470 / 裁判年月日: 昭和49年3月15日 / 結論: 棄却
一、海上物品運送契約において、積荷保険の被保険者である荷主が保険金の支払を受ける限度で運送人に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄した場合でも、商法七三九条により運送人の免責が許されない損害に関するかぎり、保険者は、保険代位により、荷主の運送人に対する損害賠償請求権を取得する。 二、商法七三八条により担保される堪航能力…