一、海上物品運送契約において、積荷保険の被保険者である荷主が保険金の支払を受ける限度で運送人に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄した場合でも、商法七三九条により運送人の免責が許されない損害に関するかぎり、保険者は、保険代位により、荷主の運送人に対する損害賠償請求権を取得する。 二、商法七三八条により担保される堪航能力は、単に船舶自体が安全に航海できることのほか、船舶による運送委託を受けた貨物を通常の海上危険に耐えて安全に目的地にまで運送できる能力を含むものであり、船舶の構造に欠陥があつて通常の海上危険により海水が船舶内に浸入し、そのために貨物が損傷を受けたような場合には、その船舶は堪航能力を欠如していたものというべきである。 三、船舶所有者は、船舶が堪航能力を有しないことによつて生じた損害については、過失の有無にかかわらず、商法七三八条に基づく賠償責任を負担すべきものである。
一、海上物品運送契約において積荷保険の被保険者である荷主が保険金の支払を受ける限度で運送人に対する損害賠償請求権をあらかじめ放棄した場合と保険代位 二、商法七三八条の堪航能力担保義務の範囲 三、商法七三八条の堪航能力担保義務の性質
商法629条,商法662条,商法738条,商法739条,商法815条,商法816条,民法519条,国際海上物品運送法附則2項
判旨
堪航能力とは貨物を安全に運送できる能力も含む。また、商法739条に反する保険利益享受約款は、強行法規違反により無効である。
問題の所在(論点)
1. 商法738条の「堪航能力」の意義およびその責任の性質。 2. 運送品の損傷が運送人の取扱中に生じたか否かの事実上の推定の可否。 3. 保険利益享受約款の有効性と商法739条(強行法規)の関係。
規範
1. 堪航能力(商法738条)とは、船舶自体の安全性のみならず、委託貨物を通常の海上危険に耐えて目的地まで安全に運送できる能力をいう。船舶の構造上の欠陥と通常の海上危険による浸水で貨物が損傷した場合、堪航能力を欠くといえ、船舶所有者は無過失責任を負う。 2. 保険利益享受約款は、荷主が保険金を得た限度で運送人への賠償請求権を放棄させる特約であるが、これは強行法規である商法739条に違反し、同条が免責を許さない事由による損害に関する限り無効である。
重要事実
上告人の船舶は、南支那海を航海中に通常予想可能な季節風に遭遇した際、構造上の欠陥により貨物艙に海水が浸入し、積荷(外観上良好で船積みされた旨の記載あり)に損傷が生じた。本件船荷証券には、荷主が保険金の支払を受けた場合に運送人の賠償責任が消滅する「保険利益享受約款」が存在した。被保険者(荷主)から損害賠償請求権を代位取得した被上告人が、運送人に対し賠償を求めた事案である。
あてはめ
1. 本件船舶は構造上の欠陥があり、通常予想される程度の季節風により浸水・貨物損傷を招いた。これは貨物を安全に運送する能力を欠くため、堪航能力の欠如にあたり、上告人は過失の有無を問わず責任を負う。 2. 船荷証券に「外観良好」の記載があり、荷揚げ時に外部から損傷が確認できる場合、特段の事情がない限り、運送中に損傷が生じたと事実上推定される。 3. 保険利益享受約款を有効とすると、保険者は代位権を失い、結果として荷主が保険金の支払拒絶等を受ける不利益を被る。これは商法739条が禁止する免責特約と同視でき、無効である。
結論
船舶に堪航能力がなく、運送中に生じた損害について上告人は賠償責任を免れない。また、保険利益享受約款は無効であるため、被上告人による保険代位は認められる。
実務上の射程
国際海上物品運送法施行前の事案であるが、商法上の「堪航能力」の定義および無過失責任の性質、さらに保険代位を妨げる約款の無効性を判断した重要な基準である。答案上は、運送人の責任原因(堪航能力)と、特約による責任制限の限界(強行法規違反)を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)1385 / 裁判年月日: 昭和43年7月11日 / 結論: 破棄差戻
一、運送保険の被保険者である荷送人が、保険金の支払を受ける前に、商法第六六二条所定の保険者代位の対象となるべき運送人に対する損害賠償請求権を放棄した場合には、右運送保険の保険者は、右放棄にかかる損害賠償請求権の金額の限度において、保険金の支払義務を免れるものと解すべきである。 二、荷送人が、運送契約の締結の際に、運送人…