一 運送品の取扱上通常予想される事態ではなく、契約本来の目的範囲を著しく逸脱する態様において、運送品の滅失、毀損が生じた場合には、運送取扱人ないし運送人に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権との競合が認められる。 二 前項の不法行為に基づく損害賠償請求権の成立が認められるためには、運送取扱人ないし運送人に、必ずしも故意または重過失があることを要しない。
一 運送品滅失毀損の場合の運送取扱人ないし運送人に対する債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権の競合 二 前項の不法行為に基づく損害賠償請求権の成立が認められるためには運送取扱人ないし運送人の故意または重過失を必要とするか
商法560条,商法577条,商法566条,民法709条,民法715条
判旨
運送契約上の債務不履行責任と不法行為責任の競合を認め、運送取扱人が受取証の回収等の措置を講じず漫然と第三者に貨物を引き渡した場合には、軽過失であっても不法行為が成立する。
問題の所在(論点)
運送契約等において運送品が滅失した場合に、債務不履行責任に加えて不法行為責任が認められるか。また、不法行為の成立には故意または重過失が必要とされるか(責任競合の成否と要件)。
規範
運送取扱人または運送人の責任に関し、運送取扱契約または運送契約上の債務不履行に基づく賠償請求権と、不法行為に基づく賠償請求権とは競合しうる。また、不法行為責任が成立するためには、必ずしも故意または重過失があることを要せず、過失があれば足りる。
重要事実
運送取扱業者(上告人)の支店係員は、貨物を預け入れた破産会社の承諾がないにもかかわらず、既に発行交付した受取証を回収せず、また承諾を確認するに足りる取引上相当の措置を講じることもなかった。係員は電話による同意があったと漫然と誤解し、第三者に対して本件貨物を引き渡したため、貨物が滅失したのと同一の結果を生じさせた。
あてはめ
運送取扱業者の係員が受取証の回収や承諾確認を怠り、漫然と誤解に基づいて第三者に貨物を引き渡した行為は、運送品の取扱上通常予想される事態ではなく、契約本来の目的範囲を著しく逸脱するものである。このような過失に基づく権利侵害は、単なる債務不履行にとどまらず、不法行為を構成する。本件における係員の注意義務違反は明らかであり、故意・重過失の存否を問わず不法行為上の賠償責任を免れない。
結論
運送契約上の債務不履行責任と不法行為責任の競合は認められ、本件のように契約の目的を著しく逸脱する過失がある場合には、不法行為に基づく損害賠償請求が可能である。
実務上の射程
契約関係にある当事者間での不法行為の成否が問題となる場面(責任競合論)で活用する。特に、商法上の短期消滅時効や責任制限規定の潜脱が問題となる場合に、判例が不法行為責任の成立を広く認めている(故意・重過失を不要としている)点に留意して論述する。
事件番号: 昭和37(オ)486 / 裁判年月日: 昭和41年12月20日 / 結論: 棄却
商法第五六六条第三項、第五八八条第二項にいう「悪意アリタル場合」とは、運送取扱人または運送人が運送品に毀損または一部滅失のあることを知つてこれを荷受人に引き渡した場合をいう。