商法第五六六条第三項、第五八八条第二項にいう「悪意アリタル場合」とは、運送取扱人または運送人が運送品に毀損または一部滅失のあることを知つてこれを荷受人に引き渡した場合をいう。
商法第五六六条第三項第五八八条第二項にいう「悪意アリタル場合」の意義
商法566条3項,商法588条2項
判旨
運送人の不法行為責任には商法588条等の免責規定の適用はなく、また、同法上の短期消滅時効等の免責規定は運送人が運送品の毀損等につき「悪意」である場合には適用されない。
問題の所在(論点)
1. 商法588条および589条の免責規定は、運送人の従業員個人の不法行為責任に対しても適用されるか。 2. 運送人が毀損の事実を知りながら貨物を引き渡した場合(悪意)、同法上の免責規定の適用は受けられるか。
規範
1. 商法588条(受領・運賃支払による責任消滅)および589条・566条1項(1年の短期消滅時効)の各免責規定は、運送人の債務不履行責任に関する規定であり、不法行為に基づく損害賠償責任には適用されない。 2. 運送人が運送品の毀損または一部滅失の事実を知って引き渡した(「悪意」)場合には、商法588条2項および589条が準用する566条3項に基づき、上記免責規定の適用は排除される。
重要事実
元請運送人Eから神戸港内での積替運送を請け負った下請運送人(上告人会社)およびその従業員A1は、作業中に本件貨物を毀損させた。荷受人の代理店は、毀損の事実を知らずに運賃を無留保で支払い、また貨物引渡しから1年以内に損害賠償請求を行わなかった。その後、元請運送人Eの権利を承継した被上告人が、上告人会社およびA1に対し、債務不履行および不法行為に基づき賠償を求めた事案である。なお、上告人会社は毀損の事実を知りながら貨物を引き渡していた。
あてはめ
1. 上告人A1の責任について:商法588条・589条は、あくまで運送人の債務不履行による賠償責任を対象とする規定である。したがって、被上告人がA1に対して不法行為に基づき訴求する場合、これらの規定を適用して責任を免れさせる余地はない。 2. 上告人会社の責任について:商法588条2項および566条3項にいう「悪意」とは、運送人が運送品に毀損等があることを知って引き渡した場合を指す。本件では、上告人会社は毀損を知りながら引き渡したことが明らかであり、「悪意」に該当する。したがって、無留保の運賃支払や1年の経過にかかわらず、会社は賠償責任を免れない。
結論
上告人らの免責主張を排斥し、損害賠償責任を認めた原審の判断は、結論において正当である。
実務上の射程
運送人の責任制限規定の射程を確認する重要判例である。不法行為との請求権競合における「責任制限の不浸透性」を前提としつつ、運送人が毀損を知りながら黙秘して引き渡す不信義な行為(悪意)がある場合には、商法上の短期消滅時効等の恩恵を一切受けられないことを明示している。答案上は、債務不履行と不法行為の要件検討を分けた上で、悪意の有無を事実認定から丁寧に拾う際に活用する。
事件番号: 昭和28(オ)528 / 裁判年月日: 昭和30年4月12日 / 結論: 棄却
運送取扱人ないし運送人が、予め発送人に対し通知もせず、その指図も受けないで、運送品を、荷受人でない第三者に引渡した場合は、単に原審認定のような事情(原判決参照)があるだけでは、未だこれを無過失ということはできない。