自衛隊の会計隊長が、同隊の自動車を運転し、隊員輸送の任務を終了した帰途、路面が雨で濡れ、かつ、アスフアルトが付着して極めて滑走し易い状況にあることを看過し、急に加速した等運転者として道路交通法上当然に負うべき通常の注意義務を怠つたことにより右自動車を反対車線に進入させて対向車に衝突させ、その衝撃によつて右自衛隊の自動車に同乗を命ぜられた者を死亡させたとしても、それだけでは国に右同乗者に対する安全配慮義務違反があるとはいえない。
自衛隊の自動車の運転者が運転上の注意義務を怠つたことにより生じた同乗者の死亡事故と国の右同乗者に対する安全配慮義務違反の成否
民法1条2項,国家公務員法3章6節3款3目公務傷病に対する補償
判旨
国が自衛隊員を車両に同乗させる際の安全配慮義務は、車両の整備や運転者の選任・指導等の「公務の管理」から生じる危険の防止を内容とするが、運転者が道路交通法等に基づき負うべき「通常の注意義務」までは含まない。
問題の所在(論点)
国が自衛隊員を車両に同乗させる場合、運転者の不注意による交通事故について、国は安全配慮義務違反としての責任を負うか。運転者の「通常の注意義務」が安全配慮義務の内容に含まれるかが問題となる。
規範
国は、公務員に対し、公務遂行のために設置する施設等の管理や、指示に基づき遂行する公務の管理に当たり、公務員の生命・健康等を保護すべき安全配慮義務を負う。自衛隊員を車両に乗車させる場合、同義務の内容は、①車両の整備、②適任な運転者の選任、③運行上の必要な安全指導を行い、車両自体や運行の環境から生じる危険を防止することにある。しかし、運転者が道路交通法等の法令上当然に負うべき「通常の注意義務」は右義務に含まれず、履行補助者が運転中に当該注意義務に違反しても、直ちに国の安全配慮義務違反とはならない。
重要事実
陸上自衛隊の会計隊長Dは、公安委員会の免許を有していたため自ら車両を運転し、将来の操縦手候補である部下Gを教育目的で同乗させた。走行中、雨天で路面にアスファルトが付着し滑りやすい状況であったにもかかわらず、Dはこれを看過して急加速し、スリップして対向車と衝突。同乗していたGが死亡した。遺族らが国の安全配慮義務違反を理由に損害賠償を求めた。
あてはめ
本件事故の原因は、運転者Dが路面状況の確認を怠り漫然と加速したという、運転者として道路交通法上当然に負うべき通常の注意義務違反にある。国としての義務をみると、会計隊長Dは免許を保有しており運転者の選任に落度はなく、車両の整備不良や運行上の特別な指導の欠如といった「公務の管理」上の不備は認められない。したがって、Dの運転上の過失はあっても、それは国の安全配慮義務の内容を構成する過失とはいえない。
結論
国の安全配慮義務違反は認められない(棄却)。
実務上の射程
公務員が負傷した場合、国家賠償法1条1項(代位責任)と安全配慮義務違反(自己責任)の両方が構成可能だが、本判決は安全配慮義務の範囲を「組織的・管理的な危険防止」に限定し、現場の個別的な運転ミスを同義務から除外した点に意義がある。消滅時効や損害賠償の範囲で安全配慮義務を主張する際の限界を示すものである。
事件番号: 昭和48(オ)383 / 裁判年月日: 昭和50年2月25日 / 結論: 破棄差戻
一、国は、国家公務員に対し、その公務遂行のための場所、施設若しくは器具等の設置管理又はその遂行する公務の管理にあたつて、国家公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務を負つているものと解すべきである。 二、国の安全配慮義務違背を理由とする国家公務員の国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、一〇年と解す…