津波による原子力発電所の事故につきこれを設置し運転していた電力会社の役員らに業務上過失致死傷罪が成立しないとした第1審判決を維持した原判決が是認された事例
刑法(平成25年法律第86号による改正前のもの)211条1項前段、刑訴法411条
判旨
巨大津波による原発事故について、信頼度が低く行政等にも採用されていない長期評価等の知見は、直ちに運転停止措置を講ずべき具体的な予見可能性を基礎付けるものとは認められない。
問題の所在(論点)
原子力発電所の過酷事故を防止するため、10m盤を超える津波の襲来を予見し、原発の運転停止等の措置を講ずべき業務上の注意義務があったといえるか。具体的には、当時の「長期評価」等の知見が、具体的な結果回避義務を課すに足りる予見可能性を基礎付けるか。
規範
業務上過失致死傷罪における予見可能性は、結果発生を回避すべき具体的な措置(本件では原発の運転停止措置)との関係で論じられるべきである。特に、社会的に重大な影響を及ぼす原発の運転停止という重い回避措置を義務付けるには、単なる抽象的な危惧では足りず、当該結果が発生することの「現実的な可能性」を認識させるに足りる具体的・客観的な知見の存在が必要である。
重要事実
東京電力の役員であった被告人らは、地震調査研究推進本部が公表した「長期評価」に基づき、福島第一原発に10m盤を超える津波(15.7m)が襲来する試算結果を把握していた。しかし、当時の「長期評価」は三陸沖から房総沖のどこでも津波地震が発生し得るとするものの、専門家間でも信頼度が低いと評価され、行政機関や地方公共団体の防災対策にも取り入れられていなかった。その後、平成23年3月11日の東日本大震災に伴う津波により、全電源喪失及び炉心損傷、水素爆発が発生し、避難者等の死傷結果(本件結果)を招いた。
あてはめ
事件番号: 平成27(あ)741 / 裁判年月日: 平成29年6月12日 / 結論: 棄却
快速列車の運転士が制限速度を大幅に超過し,転覆限界速度をも超える速度で同列車を曲線(本件曲線)に進入させたことにより同列車が脱線転覆し,多数の乗客が死傷した鉄道事故について,同事故以前の法令上,曲線に自動列車停止装置(ATS)を整備することは義務付けられておらず,大半の鉄道事業者は曲線にATSを整備していなかったこと,…
本件で回避措置として検討される原発の運転停止は、電力供給義務や社会インフラへの影響を鑑みれば極めて重い選択である。予見可能性の根拠とされる「長期評価」は、波源域の設定について積極的な裏付けがなく、地震本部自ら信頼度が低いと公表していた。また、行政や他機関が防災対策に採用していなかった事実に照らせば、被告人らが本件発電所に10m盤を超える津波が襲来する「現実的な可能性」を認識できたとは認められない。したがって、運転停止措置を講じなかったことに過失があるとはいえない。
結論
被告人らに、本件事故の結果を回避するために原発の運転を停止すべき義務に応じた予見可能性があったとは認められず、業務上過失致死傷罪は成立しない(無罪)。
実務上の射程
本決定は、高度な専門的知見に基づく事故予見性の判断において、単に最新の試算が存在するだけでなく、その知見が「具体的かつ現実的な可能性」を示す程度の信頼性や社会的受容性を備えている必要があることを示した。特に重大な不利益を伴う回避措置(運転停止等)を求める場合には、より高度な予見の蓋然性が要求されるという枠組みを示しており、実務上の過失責任の限界を画する基準となる。
事件番号: 平成26(あ)1105 / 裁判年月日: 平成28年5月25日 / 結論: 棄却
ガス抜き配管内で結露水が滞留してメタンガスが漏出したことによって生じた温泉施設の爆発事故について,その建設工事を請け負った建設会社における温泉一次処理施設の設計担当者として,職掌上,同施設の保守管理に関わる設計上の留意事項を施工部門に対して伝達すべき立場にあり,自ら,ガス抜き配管に取り付けられた水抜きバルブの開閉状態に…