特定の過失に起因して特定の結果が発生した場合に、これを一般的に観察して、その過失によつてその結果が発生する虞のあることが実験則上予測される場合においては、たとえ、その間に他の過失が同時に競合し、或は時の前後に従つて累加的に重なり、または他の何らかの条件が介在し、しかもその条件が結果発生に対して直接且つ優勢なものであり、問題とされる過失が間接且つ劣勢なものであつたとしても、これによつて因果関係は中断されず、右過失と結果との間には、なお法律上の因果関係ありといわなければならない。
他人の過失その他の条件の介入と因果関係。
刑法211条
判旨
業務上過失致死傷罪における予見可能性は、結果発生の必然性までを要せず蓋然性があれば足り、また因果関係は、他の過失や特異な条件が介在して結果が拡大した場合であっても、当該過失からその結果が発生するおそれが経験則上認められる限り否定されない。
問題の所在(論点)
1. 複数の過失や、被害を拡大させる特殊な物理的条件が介在した場合において、当初の過失と甚大な結果との間に因果関係が認められるか。2. 予見可能性の程度として、どの程度の具体性が必要か。
規範
1. 予見可能性:結果発生の必然性があることまでを要せず、蓋然性があることをもって足りる。2. 因果関係:特定の過失から特定の結果が発生するおそれが実験則(経験則)上予測される場合、たとえその間に他の過失が競合・累加し、あるいは他の物理的条件(車体構造の欠陥、送電システムの不備等)が介在して結果が甚大化・直接化したとしても、因果関係は中断されない。3. 責任の範囲:結果が未曾有の規模であったとしても、それは責任の軽重に関する情状の問題にすぎず、刑責の成否自体を左右しない。
重要事実
電力工手Aらは活線作業中に不注意から短絡事故を起こし、架線を断線・垂下させた。この影響を看過した信号掛Gや運転士Eらの過失も重なり、垂下した架線に進入した下り電車が短絡・火災を起こした(桜木町事故)。本件車両(63型)は木造部分が多く耐火性に欠け、変電所の遮断器も不備により給電が継続したため、死者106名という甚大な被害が生じた。被告人らは、このような特異な条件の重なりによる大規模火災は予見不可能であり、因果関係も断絶していると主張した。
あてはめ
1. 予見可能性について:電力工手として、架線断線が短絡・火災を招き、特に木造車体や混雑した乗客に死傷者が出ることは、当時の社会状況(63型電車の欠陥の公知性)に照らせば蓋然性があり、予見可能といえる。2. 因果関係について:Aらの過失(断線)から、後続のG・Eらの過失や車両構造、給電システム等の悪条件が連鎖して火災死傷に至ることは、実験則上予測し得る範囲内である。損害の規模が未曾有であっても、それは「損害の量」の問題であって「質」の問題(因果関係の有無)ではないため、因果関係は肯定される。
結論
被告人ら全員につき、業務上過失致死傷罪の成立を認めた原判決を維持し、上告を棄却した。
実務上の射程
業務上過失における相当因果関係の基本的枠組み(経験則による判断)と、介入事情(第三者の過失や被害者の特異体質・特殊事情)がある場合の処理において、広範な因果関係を認める判例として重要である。予見可能性についても、具体的な詳細な知識までは不要とする「危惧感説」に近い立場を示す。
事件番号: 昭和32(あ)2377 / 裁判年月日: 昭和33年4月10日 / 結論: 棄却
一個の道路交通取締法違反(居眠り運転)行為と二個の刑法第二一一条にあたる行為とがそれぞれ想像的競合犯の関係にある本件の場合には、刑法第五四条第一項前段第一〇条を適用し一罪としてその最も重い刑に従い処断すべきものである
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …