一 業務上必要な注意を怠り因つて人を死に致した以上、被害者が死亡するのに至つた原因につき、被害者側にも過失があつたからといつて、その刑責を免れ得るものではない 二 人家の建ち並ぶ巾五米の道路上を宣伝車が拡声器をつけて音楽を奏でつつ、人の歩行する程度の速度で進行していた場合には、その後部に数人の児童が取り付きまたはこれに追随するものであることが通例であるから、その児童が該宣伝車と反対の方向から進行する自動車の前面に何時飛び出すかも測り知れないことも経験則上明らかなところであつて、かくの如き経験則上明らかな法則については、特段の証明を要するものではない
一 業務上過失致死罪の刑責と被害者側の過失 二 経験則上明らかな法則と証明の要否
刑法211条,刑訴法第317条,刑訴法335条1項
判旨
宣伝車が児童らの集まりやすい状況で走行する場合、児童が他車の方へ飛び出すことは経験則上予見可能であり、業務上の注意義務を肯定すべきである。また、被害者に過失がある場合であっても、加害者の過失が否定されるものではなく、刑事責任を免れることはできない。
問題の所在(論点)
宣伝車を走行させる際、追随する児童が対向車の方へ飛び出すことを予見すべき注意義務があるか。また、被害者側に過失がある場合に加害者の業務上過失致死罪の成否に影響するか。
規範
業務上の注意義務の有無は、当時の具体的な状況に照らし、結果発生の予見可能性および回避可能性を基準に判断する。経験則上明らかな危険性については特段の証明を要さず、また被害者側に過失が認められる場合であっても、加害者の行為と結果との間に因果関係が認められ、かつ注意義務違反(過失)が認められる限り、刑事責任は免れない。
重要事実
被告人は、人家が建ち並ぶ幅員5メートルの道路上で、拡声器で音楽を流しながら宣伝車を人の歩行程度の低速で進行させていた。この状況下で、車両の後部には数人の児童が取り付いたり追随したりしていた。その後、児童の一人が対向車線から進行してきた自動車の前面に飛び出し、死亡する事故が発生した。
あてはめ
まず、音楽を鳴らし低速走行する宣伝車には児童が群がることが通例であり、児童が他車の前に飛び出すことは経験則上明らかであるため、結果の予見可能性が認められる。被告人はかかる状況下で児童の安全を確保すべき注意義務を負っていたといえる。次に、被害者側の過失については、被告人の注意義務違反によって死の結果が発生している以上、被害者側の落ち度は被告人の過失の成立を左右するものではないと解される。
結論
被告人には業務上過失致死罪が成立する。被害者に過失があっても被告人の刑責は免除されない。
実務上の射程
過失犯における予見可能性の判断に「経験則」を用いる際の論法として活用できる。特に「被害者の落ち度」が被告人の過失を否定する抗弁として提出された際の反論の枠組み(過失の相殺は刑事法上認められない点)を示すのに適している。
事件番号: 昭和31(あ)1187 / 裁判年月日: 昭和33年9月8日 / 結論: 棄却
乗合自動車の運転者が、中学校の正門前附近道路を進行する場合には、前方ならびにその左右を警戒して校門出入者の有無に注意し、その出入者と衝突のおそれがあるときは何時でも停車することができる程度に速度を減少する等事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。
事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …