自動車運転者が、エンジン、配電機、警音機等の故障により自力で運転することの不可能となつた貨物自動車を、ワイヤロープ等によつて連結牽引して運転する場合においては、通常の自動車運転者としての注意義務を有するの外、進行方向の転換、速力の加減、通行中の人馬等とのすれ違いや追越等については、特に事前において、牽引される自動車の運転者等と、危険な場合に備え、予め運転上如何なる事態にも対処し得るように、詳細な打合せをして置き、運転中においても、常に密接な連絡を保ち、牽引車の車体上に看視者を置いて、被牽引車との連絡や通行人馬の看視並びにこれ等の者に対し注意を与える途を講ずるとか、牽引車や牽引ロープ等に標識を附して、通行人馬に警戒させる等の措置を講じ、殊に薄暮時および夜間においては、その時の状況に応じ、被牽引車の前照燈を点燈して被牽引車の存在することの発見を容易ならしめる措置を講じ、更に通行道路が狭隘であるすれ違いの人馬等のある場合には、極力減速して、何時にても急停車し危害の発生を未然に防止し得るよう臨機応変の措置を講ずべき義務がある。
自動車運転者が故障自動車を連結牽引して運転する場合の注意義務
刑法221条,道路交通取締法7条2項5号,道路交通取締法8条1項,道路交通取締法8条2項,道路交通取締法11条,道路交通取締法13条,道路交通取締法20条,道路交通取締法23条,道路交通取締令16条,道路交通取締令18条
判旨
被告人に注意義務の懈怠が認められる場合、被害者や第三者が相当の注意を払えば結果を回避できたとしても、被告人は過失犯としての責任を免れない。
問題の所在(論点)
刑法上の過失致死傷罪等において、被害者や第三者に過失(回避可能性)が認められる場合、被告人の注意義務違反と結果との因果関係、あるいは過失の成否が否定されるか。
規範
過失犯の成立において、被告人に具体的な注意義務の違反(懈怠)が認められるのであれば、たとえ被害者や後続車両の運転者など第三者が適切な回避行動をとることによって結果発生を防止し得たという事情があっても、それのみによって被告人の過失責任が直ちに否定されるものではない。
重要事実
被告人が運転中、何らかの注意義務を怠ったことにより事故が発生した。被告人側は、被害者本人や後続車両の運転者が適切な注意を払っていれば被害者が安全に避難でき、事故を回避できたはずであると主張して上告した。
あてはめ
原判決が認定した通り、被告人には事故を回避すべき注意義務があり、その懈怠が認められる。被害者や後車の運転者が注意すれば避難できたという事情は、被告人の義務違反それ自体の存在を左右するものではなく、被告人の過失と被害発生との結びつきを断絶させるものとはいえない。したがって、被告人は刑事責任を免れないと解される。
結論
被告人に注意義務違反がある以上、他者の注意による回避可能性があっても被告人の過失責任は成立する。
実務上の射程
過失犯の因果関係や過失の成否が問題となる事案で、被害者の落ち度や第三者の介入を理由に被告人が免責を主張する場合に、その主張を排斥する根拠として用いる。ただし、現在の実務では「相当因果関係」や「客観的帰責」の枠組みで、介入した事情の寄与度を個別に評価することに留意が必要である。
事件番号: 昭和30(あ)3397 / 裁判年月日: 昭和33年9月3日 / 結論: 棄却
貨物自動車運転者が道路の交叉点を右折しようとするにあたり、該交叉点に差しかかる六、七米手前において同一方向に歩行している児童の姿を認めた場合には、車体を歩行者に接触せしめないよう前方左右を警戒し、警音器を吹鳴し、または極度に徐行するか、あるいは停車する等危害の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務がある。