被害者が自転車に乗つて狭い道路から広い道路に進入するに当り優先順位を守らなかつたため被告人操縦の自動車と衝突したものであつても、被告人に前方注視、徐行等の注意義務を守らない果実がある以上業務上過失傷害罪の成立を妨げない。
被害者の交通法規の無視と業務上過失傷害罪の成立。
刑法211条,道路交通取締法18条
判旨
被害者が交通法規を遵守せず交差点に進入したとしても、加害者が前方注視や徐行等の注意義務を怠った結果として事故が発生した以上、業務上過失致死傷罪が成立する。被害者の過失は、加害者の注意義務違反に直結する因果関係や過失の成否を当然に否定するものではない。
問題の所在(論点)
被害者に交通法規違反(優先順位の不遵守)という過失がある場合において、加害者が負うべき業務上の注意義務(旧刑法211条、現刑法211条)が否定され、業務上過失傷害罪の責任を免れるか。
規範
過失犯の成否において、被害者側の過失の有無は、行為者の注意義務の内容や程度に影響を及ぼし得るが、被害者に法規不遵守があることのみをもって直ちに行為者の注意義務が免除されるわけではない。行為者が当時の状況下で払うべき前方注視、一時停車、徐行等の具体的な回避措置を怠り、その結果として結果が発生した場合には、なお業務上の注意義務違反が認められる。
重要事実
被告人が自動車を運転して交差点に進入する際、被害者が狭い道路から優先順位を守らずに広い道路へ進入し、被告人の車両の前方を横切ろうとした。被告人は、交差点進入時に本来遵守すべきであった前方注視、一時停車、徐行等の注意義務を怠った状態で走行し、被害者に傷害を負わせる事故を発生させた。
あてはめ
本件では、被害者が優先順位を無視して交差点に進入した事実は認められる。しかし、被告人においても、交差点という危険が潜在する場所を走行するにあたり、前方注視や徐行等の基本的かつ具体的な注意義務が課されていた。被告人はこれらを怠っており、被害者の過失を考慮してもなお、被告人の過失と傷害結果との間には因果関係が認められる。したがって、被害者の過失のみを理由に被告人の注意義務違反が否定される余地はない。
結論
被告人は業務上過失傷害罪の責任を免れない。上告棄却。
実務上の射程
被害者の過失(落ち度)が介在する事案において、信頼の原則が適用されない先行判例的な位置づけである。被告人側に前方注視等の基本的な義務違反がある限り、被害者の法規不遵守を理由とした過失の否定は困難であることを示しており、答案上では過失の有無を判断する際の「客観的注意義務」の検討段階で用いる。
事件番号: 昭和35(あ)834 / 裁判年月日: 昭和38年1月24日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和37(あ)2816 / 裁判年月日: 昭和39年11月24日 / 結論: 棄却
一 業務上過失致死傷罪にいわゆる業務につき、それが社会生活上の地位に基づきなされることを要しないとの原判示は相当でないが、原判決は被告人が自動車の運転を反覆断続して行なつていた事実を認定しているところ、右事実はとりもなおさず社会生活上の地位にほかならないから、結局原判決の右法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼさない。 二 …