右折しようとする車両の運転者は、その時の道路および交通の状態その他の具体的状況に応じた適切な右折準備態勢に入つたのちは、特段の事情がない限り、後方を同一方向に進行する車両があつても、その運転者において、交通法規の諸規定に従い、追突等の事故を回避するよう正しい運転をするであろうことを期待して運転すれば足り、それ以上に、違法異常な運転をする者のありうることまでを予想して周到な後方安全確認をなすべき注意義務はない。
右折車両の運転者の後方注意義務
刑法211条前段,道路交通法28条,道路交通法34条
判旨
右折車の運転者が適切な準備態勢に入った後は、特段の事情がない限り、後進車が交通法規に従い事故を回避するよう運転することを期待して足り、違法異常な運転までを予想して周到な後方確認を行う義務はない。
問題の所在(論点)
適切な右折準備態勢をとった運転者に対し、後進車の違法異常な運転までをも予見して回避すべき周到な後方安全確認義務(刑法211条前段の注意義務)が認められるか。
規範
右折運転者は、道路交通法に従い合図や中央寄り走行等の適切な右折準備態勢に入った後は、特段の事情がない限り、後進車が交通法規を遵守して追突等の事故を回避するよう正しい運転をすることを期待して運転すれば足りる(信頼の原則)。ここにいう「特段の事情」とは、道路や交通の状態に照らし、後進車が適切な対応措置をとることが困難であるとか、違法異常な運転をする者の存在を認めた場合などを指す。このような事情がない限り、それ以上に違法異常な運転を予想した周到な後方安全確認義務は課されない。
重要事実
自動二輪車を運転する被告人が、丁字路交差点を右折しようとした際、後方から進行してきた原動機付自転車(A運転)に追突され、同乗者を死亡させ、Aに傷害を負わせた事案。第一審及び原審は、被告人が法に従い右折の合図を行い、右折方法自体に不適切な点はなかったと認定した。しかし、原審は、後続車Aが被告人の視野の範囲内かつ衝突の危険がある位置にいた以上、被告人が後方を確認したとしてもそれは不十分なものであり、後方安全確認義務の懈怠があったとして有罪を言い渡したため、被告人が上告した。
事件番号: 昭和47(あ)682 / 裁判年月日: 昭和47年11月16日 / 結論: 破棄差戻
交差点を右折するため、中央線に沿つて適式な右折合図をしながら右折を始めようとする車両の運転者としては、道路交通法(昭和四六年法律第九八号による改正前のもの)三四条二項に違反して交差点手前約六米の地点から右折を開始したとしても、それが、右規定に従つた右折方法に比し、後続車との衝突の危険を一層増大させるものでない場合には、…
あてはめ
本件において、被告人は法に従い合図を行い、道路の中央に寄るなどの適切な右折準備態勢をとっていた。このような状況下では、後進車は道交法に基づき先行車の進行を妨げず、安全な速度と方法で左側を通過すべき義務を負う。被告人は、後進車がこれら法規に従い正しく運転することを期待して足りる。原判決は、後進車が適切な対応を期待しがたいといった「特段の事情」の有無について何ら説示することなく、単に後続車を発見できなかったことをもって、一律に周到な後方安全確認義務を課している。これは、過失犯における注意義務の範囲を不当に広げるものであり、信頼の原則の適用を誤ったものといえる。
結論
被告人に後方安全確認義務の懈怠があったとした原判決には、刑法211条前段の解釈適用を誤った違法がある。原判決を破棄し、札幌高等裁判所に差し戻す。
実務上の射程
交通事故における「信頼の原則」を確立した重要判例である。答案上は、まず予見可能性・回避可能性に基づく一般的な注意義務を論じた上で、道交法等の法規を遵守している先行車が後続車の異常な挙動までケアすべきかという文脈で使用する。「特段の事情」の有無を検討する際には、道路状況や後続車の具体的な挙動の異常性の有無を事実から拾い、あてはめる必要がある。
事件番号: 昭和41(あ)1831 / 裁判年月日: 昭和42年10月13日 / 結論: その他
幅員約10メートルの一直線で見通しがよく、他に往来する車両のない道路のセンターラインの若干左側から、進路の右側にある小路にはいるため、右折の合図をしながら、右折を始めようとする原動機付自転車の運転者としては、後方から来る他の車両の運転者が、交通法規を守り、速度をおとして自車の右折を待つて進行する等、安全な速度と方法で進…
事件番号: 昭和43(あ)490 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
交差点において、青信号により発進する自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、赤信号を無視して右交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務はないものと解すべきである。