交差点において、青信号により発進する自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、赤信号を無視して右交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務はないものと解すべきである。
自動車運転者に赤信号を無視して交差点に進入してくる車両のありうることまで予想すべき注意義務がないとされた事例
刑法211条,道路交通法4条2項,道路交通法119条1項1号
判旨
自動車運転者は、特段の事情がない限り、他の車両が交通法規を遵守して行動することを期待してよく、赤信号を無視して突入してくる車両の存在までを予見すべき注意義務はない。
問題の所在(論点)
青信号に従って交差点に進入する運転者に対し、赤信号を無視して進入してくる車両を予見し、回避すべき業務上の注意義務が認められるか。
規範
業務上過失致死傷罪(刑法211条前段)における注意義務の存否に関し、自動車運転者は、特別な事情のない限り、交通法規を無視して進行してくる車両等のあり得ることまでも予想して注視すべき業務上の注意義務はない(信頼の原則)。
重要事実
被告人は、交差点で南北信号が青に変わったため、普通乗用自動車を発進させた。その際、右方から赤信号を無視して、または信号の変化に気づかず交差点に進入してきた原動機付自転車と衝突し、運転者に傷害を負わせた。原審は、信号が変わった直後であるから他車が進入する可能性を予見し左右を注視すべき義務があるとして過失を認定した。
あてはめ
本件では、被告人は自側の信号が青に変わったことを確認して発進しており、相手方の原付自転車は赤信号を無視して交差点に突入した蓋然性が高い。このような場合、運転者において相手方が交通法規を無視することを予見すべき「特別な事情」が認められない限り、右方の注視を欠いたとしても注意義務違反(過失)は認められない。原審は、特段の事情を認定せずに漫然と注視義務を肯定しており、法令の解釈に誤りがある。
結論
信頼の原則が適用される結果、特段の事情がない限り、被告人に過失は認められず、業務上過失致死傷罪は成立しない。
実務上の射程
交通事故における過失致死傷罪の成否において、予見可能性を限定する「信頼の原則」を明示した重要判例である。答案上では、予見可能性の有無を検討する際、本判例を根拠に「特段の事情」の有無(相手方の異常な挙動の既知性等)を確認する形で論じる。
事件番号: 昭和43(あ)1508 / 裁判年月日: 昭和44年3月14日 / 結論: 破棄差戻
被告人の弁解にそう証拠もあるのに、単に被告人が捜査段階でその証拠にそう弁解をしていないことなど(判文参照)を理由に、右弁解を排斥するのは、採証法則違背ないし重大な事実誤認の疑いがある。