交通整理が行なわれておらず、しかも左右の見とおしのきかない交差点で、他方の道路からの入口に一時停止の道路標識および停止線の表示があるものに進入しようとする自動車運転者としては、徐行して、その停止線付近に交差点にはいろうとする車両等が存在しないことを確かめた後、すみやかに交差点に進入すれば足り、本件相手方のように、あえて交通法規に違反して、高速度で、交差点を突破しようとする車両のありうることまでも予想して、他方の道路に対する安全を確認し、もつて自己の発生を未然に防止すべき注意義務はないものと解するのが相当である。
交差点に進入しようとする自動車運転者に交通法規に違反して高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまでも予想すべき注意義務がないとされた事例
刑法(昭和43年法律61号による改正前のもの)211条,道路交通法35条1項,道路交通法42条,道路交通法43条
判旨
交通整理の行われていない交差点において、優先道路側を進行する運転者は、他方の道路の入口に一時停止の標識等がある場合、他車が交通法規を無視して突入してくることまでを予見して事故を防止すべき注意義務はない。
問題の所在(論点)
交通整理の行われていない交差点において、優先道路側を走行し一時停止標識のない側を進行する運転者に、他方の道路から交通法規に違反して進入してくる車両を予見すべき注意義務(刑法211条前段の過失)が認められるか。
規範
自動車運転者は、他方の道路の入口に一時停止の道路標識および停止線の表示がある交差点に進入しようとする際、その停止線付近に交差点に入ろうとする車両等が存在しないことを確認すれば足りる。特段の事情がない限り、あえて交通法規に違反し、高速度で交差点を突破しようとする車両の存在までを予想して、事故発生を未然に防止すべき注意義務はない(信頼の原則)。
重要事実
被告人は、幅員7.3mの道路を時速約20kmで進行し、幅員10.4mの優先道路(東西道路)との交差点に差し掛かった。東西道路の入口には一時停止の標識と停止線があった。被告人は交差点手前で時速約10kmに減速し、右方を確認したところ、停止線付近に車両がないことを認めたため、そのまま進入した。そこへ、一時停止せず時速30km以上で突入してきたA車が被告人車に衝突し、その弾みで被告人車が歩行者Bに接触し傷害を負わせた。原審は、被告人が「死角から他車が来る可能性」を考慮し、より遠方まで安全確認すべき義務を怠ったとして過失を認めた。
あてはめ
本件交差点の東西道路側には一時停止の標識と停止線が存在し、運転者はこれに従う義務がある。被告人が右方を確認した際、停止線付近に車両は存在しなかった。この場合、現認できなかった遠方の車両も法規に従い一時停止するものと信じるのが相当であり、被告人が進入を継続したことに不注意はない。原審が要求するような高度な注意を義務付けることは、一時停止を定めた道路交通法の趣旨を没却し、法規を遵守する者に不合理な負担を強いるものである。したがって、Aが法規に違反して高速度で突破することまでを予見すべき義務はないといえる。
結論
被告人に過失は認められず、無罪(原判決および第一審判決を破棄)。
実務上の射程
「信頼の原則」が適用される典型事案である。答案上は、過失の予見可能性や結果回避義務を論じる際、相手方の著しい交通法規違反が想定される場面で本判例を引用し、注意義務の範囲を限定する論拠として用いる。ただし、相手方の違反をあらかじめ認識できた等の特別の事情がある場合には適用が制限される点に注意が必要である。
事件番号: 昭和40(あ)1752 / 裁判年月日: 昭和41年12月20日 / 結論: 破棄差戻
交通整理の行なわれていない交差点において、右折の途中に車道中央付近で一時エンジンの停止を起こした自動車が、再び始動して時速約五粁の低速で発車進行しようとする際、自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、右側方からくる他の車両が交通法規を守り自車との衝突を回避するため適切な行動に出ることを信頼して運転すれば足り、あえ…
事件番号: 昭和43(あ)490 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
交差点において、青信号により発進する自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、赤信号を無視して右交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務はないものと解すべきである。