交差する道路(優先道路を除く。)の幅員より明らかに広い幅員の道路から、交通整理の行なわれていない交差点にはいろうとする自動車運転者としては、その時点において、自己が道路交通法一七条三項に違反して道路の中央から右の部分を通行していたとしても、右の交差する道路から交差点にはいろうとする車両等が交差点の入口で徐行し、かつ、自車の進行を妨げないように一時停止するなどの措置に出るであろうことを信頼して交差点にはいれば足り、本件被害者のように、あえて交通法規に違反して、交差点にはいり、自車の前で右折する車両のありうることまでも予想して、減速徐行するなどの注意義務はない。
道路交通法一七条三項に違反して道路の中央から右の部分を通行していた自動車運転者にいわゆる信頼の原則が適用された事例
刑法211条,道路交通法17条3項,道路交通法36条
判旨
広幅員道路を進行する運転者は、狭幅員道路から進入する車両が交通法規を遵守し一時停止等を行うことを信頼してよく、特段の事情がない限り、相手方の法規違反を予見して減速徐行すべき義務はない。
問題の所在(論点)
広幅員道路を進行する運転者が、狭幅員道路から進入する車両の一時停止を信頼することの可否、および運転者自身に道路交通法違反(右側通行)がある場合の注意義務の成否が問題となる。
規範
交通整理の行なわれていない交差点において、明らかに幅員の広い道路を進行する運転者は、狭い方の道路から進入しようとする車両が、道路交通法36条に基づき徐行・一時停止をして自車の進行を妨げないものと信頼して進行すれば足りる(信頼の原則)。相手方が交通法規に違反して自車の前方へ進入してくることまでも予見すべき注意義務を負うのは、相手方の態度等から法規違反の可能性を具体的に認識し得る「特別の事情」がある場合に限られる。
重要事実
事件番号: 昭和44(あ)1497 / 裁判年月日: 昭和45年12月22日 / 結論: 破棄自判
交差する左方の道路で、しかも交差する道路(優先道路を除く。)の幅員より明らかに広い幅員の道路から、交通整理の行なわれていない交差点にはいろうとする自動車運転者としては、その時点において、自己が道路交通法六八条に違反して時速八〇キロメートルで運転をしていたとしても、交差する右方の道路から交差点にはいろうとする車両等が交差…
被告人は、幅員約5、6メートルの県道を時速50〜60kmで進行中、左方から接続する幅員約2メートルの農道(狭幅員道路)との交差点に差し掛かった。被告人は交差点手前約37.5メートルの地点で、農道を時速25〜30kmで進行する被害者の自動二輪車を発見した。被害者は下を向くような形で進行しており、一時停止せずに交差点に進入して右折を開始した。被告人は急制動をかけたが衝突し、被害者を死亡させた。なお、被告人は当時、道路の中央から右側を通行するという法規違反の状態にあった。
あてはめ
本件では、県道の幅員が農道より明らかに広く、被告人は道交法36条4項により左方優先(35条3項)の適用を免れる立場にあった。被害者は同条2、3項により徐行・一時停止の義務を負っており、被告人が被害者の停止を信頼したことは当然であって不注意とはいえない。また、被告人の右側通行という法規違反は事故との条件関係は認められるものの、被害者が停止すべき場面であった以上、そのままの速度で進行しても衝突の結果発生を認識すべき注意義務があったとはいえない。被害者が下を向いていた事実は、直ちに法規違反を予見させる「特別の事情」には当たらない。
結論
被告人は、被害者が一時停止せずに自車前方に進入することまでを予想して減速徐行すべき義務を負わないため、業務上過失致死罪は成立せず、無罪である。
実務上の射程
過失運転致死傷罪における「信頼の原則」の適用範囲を画した重要判例である。特に、広幅員道路(優先関係)を走行する側が、自身の法規違反(右側通行等)がある場合でも、結果回避義務の前提となる予見可能性(予見義務)が否定され得ることを示しており、過失の有無を判断する際の規範として汎用性が高い。
事件番号: 昭和43(あ)373 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】業務上の注意義務は、他者の異常な行動を予見して自ら危険な回避行動をとることまでを当然に要求するものではなく、回避措置が他の法益を危うくする場合は過失が否定される。 第1 事案の概要:被告人は貨物自動車を運転中、自転車2台を追い越すため道路中央から右側へ50cmはみ出して進行した。その際、前方約34…