一 道路交通法施行令(昭和四六年政令第三四八号による改正前のもの。)二条一項所定の黄色の燈火の点滅信号による規制の意味は、当該信号設置場所における道路の広狭、優先関係、見とおしの良否、車両または歩行者の往来状態等の諸般の事情に応じて、当該場所を進行する自動車運転者に対し、道路交通の安全と円滑を図る見地から課せられる交通法令上の各種義務および運転業務上の注意義務をはたすにつき、いつそうの留意を喚起するにある。 二 明らかに幅員の広い道路を進行する車両の運転者が、本件の具体的状況(判文参照)において、毎時約五五キロメートルの速度で交差点に進入することによる具体的危険性はほとんどなかつたと認められる場合、無謀車両はあるまいと期待して進行することは相当として許され、いつでも停止できる程度に除行もしくは減速する業務上の注意義務を負うものではない。
一 黄色の灯火の点滅信号の意義 二 明らかに幅員の広い道路を進行する車両の運転者に、交差点進入に際し、除行もしくは相当の減速の注意義務がないとされた事例
道路交通法施行令(昭和46年政令348号による改正前のもの)2条1項,刑法211条前段
判旨
黄色の点滅信号下での注意義務は道路状況に応じ、優先道路を進行する運転者は、他車が交通法規を遵守するとの信頼が置ける状況下では、無謀な車両の突入を予見して徐行・減速すべき義務を負わない。
問題の所在(論点)
業務上過失致死罪における過失の有無。特に、黄色点滅信号が設置された優先道路を走行する運転者に、狭路からの無謀な車両の進出を予見して徐行・減速すべき業務上の注意義務があるか。
規範
黄色の点滅信号による規制は、道路の広狭、優先関係、見通し、往来状態等の諸般の事情に応じ、運転者にいっそうの留意を喚起するものである。したがって、具体的な減速等の措置を講ずべき業務上の注意義務の有無は、信号の事実のみならず、当該交差点における具体的状況に照らして判断されるべきであり、自己が交通法規を遵守している場合、他者が交通法規を無視して無謀な運転を行うことまで具体的に予見すべき事情がない限り、予見・回避義務を負わない(信頼の原則)。
重要事実
被告人は、黄色点滅信号が表示された夜間の見通しの悪い交差点を、時速約55kmで北進中、東西道路(狭路)から進入したBの自動二輪車と衝突しBを死亡させた。被告人の走行する南北道路(幅員約10m)は、東西道路(幅員約4.8m)に比して明らかに幅員が広く優先道路であった。当時、同交差点では他の車両(A)が被告人車の通過を待つため最徐行しており、優先関係の相互規制が遵守されている状況にあったが、B車はA車を追い越して無謀に交差点へ進入した。
あてはめ
本件交差点は被告人車が走行する道路が「明らかに幅員の広いもの」であり、道路交通法上、被告人は徐行義務を免れる一方、B車には徐行および進行妨害禁止の義務があった。現に先行車Aは被告人車を待避しており、被告人が他車も法規を遵守すると期待することは相当である。Bのような無謀な車両が突如あらわれることを具体的に予測させる事情がない以上、交通上の具体的な危険性はほとんどなく、被告人に対し、いつでも停止できる程度にまで徐行・減速することを要求するのは酷である。したがって、被告人に結果回避義務違反としての過失は認められない。
結論
被告人は無罪。優先道路を走行する者に、特段の事情なく無謀な他車の出現までを予見した過失責任を問うことはできない。
実務上の射程
過失犯の成立において「信頼の原則」を適用した重要判例である。黄色の点滅信号がある場合でも、優先関係が明らかな交差点では、相手方の交通法規遵守を期待するのが相当な限り、具体的な予見可能性・結果回避義務は否定され得る。答案では、注意義務の具体的帰属を論じる際のあてはめ指標として用いる。
事件番号: 昭和45(あ)846 / 裁判年月日: 昭和46年6月23日 / 結論: 棄却
昭和四六年法律第九八号による改正前の道路交通法のもとにおいても、中央緑地帯の存する広いa通に狭いb町通が交わる本件事故現場の道路状況(決定書別紙図面および原判文参照)にかんがみれば、a通を東進して来て右折しb町通を南進しようとしていまだa通の中央緑地帯の切れ目にある車両、およびb町通を北から南へ進行しようとしてa通の中…
事件番号: 昭和43(あ)490 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
交差点において、青信号により発進する自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、赤信号を無視して右交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務はないものと解すべきである。