自車と対面する信号機が黄色の燈火の点滅を表示し、交差道路上の信号機が赤色の燈火の点滅を表示している場合、当該交差点に進入しようとする自動車運転者としては、特段の事情がないかぎり、交差道路から交差点に接近してくる車両の運転者において右信号に従い一時停止および事故回避のための適切な行動をするものと信頼して運転すれば足り、それ以上に、あえて法規に違反して一時停止をすることなく高速度で交差点を突破しようとする車両のありうることまで予想した周到な安全確認をなすべき業務上の注意義務を負うものでなく、当時法規所定の徐行義務を懈怠していたとしても、この場合における注意義務違反の成否に影響を及ぼさない。
交差点に進入しようとする自動車運転者に交通法規に違反して交差点に進入する車両を予想した安全確認をすべき業務上の注意義務がないとされた事例
刑法(昭和43年法律61号による改正前のもの)211条,道路交通法(昭和46年法律98号による改正前のもの)4条,道路交通法(昭和46年法律98号による改正前のもの)42条,道路交通法施行令(昭和46年政令348号による改正前のもの)2条1項
判旨
黄色の点滅信号に対面する運転者は、特段の事情がない限り、赤色の点滅信号に対面する交差道路側の車両が一時停止等の適切な行動をとるものと信頼して運転すれば足り、過失は否定される。道路交通法上の徐行義務違反があっても、それが直ちに刑法上の予見・回避義務を基礎付けるものではない。
問題の所在(論点)
黄色点滅信号に従い進行する運転者に、赤色点滅信号を無視して突入してくる車両を予見し、徐行等により事故を回避すべき業務上の注意義務があるか。また、道交法上の徐行義務違反が刑法上の過失に直結するか。
規範
1. 業務上過失致死傷罪における予見義務は、社会通念上要求される通常の注意力を基準とする。2. 交通整理の行われていない交差点において、自己の対面信号が黄色点滅(注意進行)、交差側が赤色点滅(一時停止義務)である場合、特段の事情がない限り、相手方が法規を遵守して一時停止することを信頼して運転すれば足りる。3. 行政法上の交通法規違反(徐行義務等)がある場合でも、それが直ちに刑法上の過失を意味するものではなく、事故との具体的な予見可能性・結果回避可能性に基づき判断すべきである。
重要事実
被告人は大型貨物車を運転し、深夜、黄色点滅信号の交差点に時速約50キロメートルで進入した(道交法42条の徐行義務違反の疑いあり)。一方、交差する県道側は赤色点滅信号であったが、A運転の乗用車が一時停止せず時速約60キロメートルで突入。衝突によりAの同乗者が死傷した。原審は被告人の徐行義務違反を認め有罪としたが、被告人はAの不正常な運転を予見できたかが争点となった。
あてはめ
被告人の対面信号は「他の交通に注意して進行できる」黄色点滅であり、交差側のAは赤色点滅により一時停止義務を負っていた。特段の事情がない本件では、被告人はAが法規に従い一時停止することを信頼して運転すれば足り、Aが法に反して高速で突入することまで予見すべき義務はない。また、被告人の徐行義務懈怠と結果との間に条件的因果関係が認められ得るとしても、Aが適正に運転していれば事故は発生しなかった以上、被告人の徐行懈怠が直ちに事故に直結した不注意とはいえない。
結論
被告人に業務上の注意義務違反(過失)は認められない。原判決を破棄し、被告人は無罪。
実務上の射程
交通事犯における「信頼の原則」を適用した重要判例である。道交法等の行政上の義務違反がある場合でも、それが直ちに刑法上の過失となるわけではない(過失の相対性・個別化)ことを論述する際に有用。特に「特段の事情」の有無(相手方の不正常な動きの現認など)が、信頼の原則の限界を画するポイントとなる。
事件番号: 昭和46(あ)2352 / 裁判年月日: 昭和48年3月22日 / 結論: その他
北方道路の入口で私人の手旗による交通規制の行なわれている交差点において、東方から同交差点に進入する車両の運転者は、北方から進行してくる車両の運転者が私人の赤旗による停止の合図に従うものと信頼してよく、同運転者がその停止の合図を無視し同交差点に進入してくることまでを予想して徐行しなければならない業務上の注意義務はない。
事件番号: 平成14(あ)183 / 裁判年月日: 平成15年1月24日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】黄色点滅信号の交差点において徐行義務違反があったとしても、赤色点滅信号を無視して異常な高速で進入してきた他車との衝突を回避できたとの証明が不十分な場合、過失致死傷罪は成立しない。 第1 事案の概要:タクシー運転手の被告人は、黄色点滅信号の交差点を、左右の見通しが利かないにもかかわらず時速約30〜4…
事件番号: 昭和44(あ)1497 / 裁判年月日: 昭和45年12月22日 / 結論: 破棄自判
交差する左方の道路で、しかも交差する道路(優先道路を除く。)の幅員より明らかに広い幅員の道路から、交通整理の行なわれていない交差点にはいろうとする自動車運転者としては、その時点において、自己が道路交通法六八条に違反して時速八〇キロメートルで運転をしていたとしても、交差する右方の道路から交差点にはいろうとする車両等が交差…