北方道路の入口で私人の手旗による交通規制の行なわれている交差点において、東方から同交差点に進入する車両の運転者は、北方から進行してくる車両の運転者が私人の赤旗による停止の合図に従うものと信頼してよく、同運転者がその停止の合図を無視し同交差点に進入してくることまでを予想して徐行しなければならない業務上の注意義務はない。
自動車運転者に私人の赤旗による停止の合図を無視し交差点に進入してくる車両のありうることまでを予想して徐行しなければならない業務上の注意義務はないとされた事例
刑法211条前段
判旨
交通整理の行われていない交差点において、私人が交通規制を行っている場合、その停止合図を無視して他車が進入することまでを予想して徐行すべき業務上の注意義務はない。信頼の原則に基づき、相手方が適切に交通規制に従うと信頼することが相当であれば、過失は否定される。
問題の所在(論点)
私人が交通整理を行っている交差点において、他者がその合図を無視して進入することまでを予見し、徐行・安全確認をすべき業務上の注意義務(刑法211条前段)を負うか。信頼の原則の適用の成否が問題となる。
規範
業務上過失致死傷罪における注意義務の有無を判断するにあたり、交通規制に従事する私人の合図がある場合、自動車運転者は、他者がその合図に従うことを信頼してよい。したがって、相手方が交通規制を無視して進入してくることまでを予想し、あらかじめ徐行すべき業務上の注意義務は、信頼の原則に基づき否定される。
重要事実
被告人は大型貨物車を運転中、見通しのきかない変形交差点に時速約50キロで進入し、右方から進入したCの車両と衝突し傷害を負わせた。当時、交差点角では作業員Bが赤旗を用いて北方道路の車両(C車)に対し停止の合図を送っていた。被告人は当日何度も往復しておりBによる規制を知っていた。事故の際、被告人はBが赤旗を上げているのを確認し、C車が停止すると信頼して進行したが、Cは赤旗を無視して時速25キロで進入した。原審は、私人の規制を過信することは危険であるとして被告人の徐行義務・安全確認義務違反(刑法211条前段)を認めた。
あてはめ
本件交差点でのBによる交通規制は、道交法上の「交通整理」には当たらない。しかし、Bが赤旗で停止合図を現に行っていた以上、被告人が「北方からの車両は合図に従って停止する」と信頼することは客観的に相当といえる。被告人は交差点手前でBの赤旗を確認し、実際にアクセルから足を離す措置も講じている。このような状況下では、Cが停止合図を無視して進入してくることまでを予見すべき注意義務はない。また、記録上、安全確認義務を怠ってC車の発見が遅れたとの事実も認められない。
結論
被告人はC車が停止合図に従うと信頼したことに相当な理由があり、徐行しなかったことを過失とすることはできない。したがって、被告人は無罪である。
実務上の射程
交通弱者が絡まない車両相互の事故において、私人の合図であってもその客観的信頼性が認められる場合には信頼の原則が適用され得ることを示した。答案上は、予見可能性(予見義務)の否定、または信頼の原則による注意義務の限定として構成する。
事件番号: 昭和48(あ)281 / 裁判年月日: 昭和48年12月25日 / 結論: 破棄差戻
交通整理の行なわれていない、見とおしの悪い交差点で、交差する双方の道路の幅員がほぼ等しいような場合、一時停止の標識に従つて停止線上で一時停止し発進進行しようとする自動車運転者としては、特別な事情がないかぎり、交差道路から交差点に進入しようとする車両が交通法規を守り交差点で徐行することを信頼して運転すれば足り、それ以上に…