黄色点滅信号で交差点に進入した際,交差道路を暴走してきた車両と衝突し,業務上過失致死傷罪に問われた自動車運転者について,衝突の回避可能性に疑問があるとして無罪が言い渡された事例
刑法211条前段(平成13年法律第138号による改正前のもの)
判旨
黄色点滅信号の交差点において徐行義務違反があったとしても、赤色点滅信号を無視して異常な高速で進入してきた他車との衝突を回避できたとの証明が不十分な場合、過失致死傷罪は成立しない。
問題の所在(論点)
被告人が道路交通法上の徐行義務(42条1号)を怠ったことは明らかである状況下で、相手方の著しい交通ルール違反を前提としても、被告人の行為と結果との間に因果関係(結果回避可能性)が認められるか。
規範
業務上過失致死傷罪における過失の認定には、注意義務違反(結果回避措置義務違反)のみならず、当該措置を講じていれば結果を回避できたという「結果回避可能性」が厳格に証明される必要がある。また、交通法規を遵守して進行する者は、他者が異常な交通法規違反を犯すことまでを想定して行動すべき義務(信頼の原則に関連する予見可能性)を当然に負うものではない。
重要事実
タクシー運転手の被告人は、黄色点滅信号の交差点を、左右の見通しが利かないにもかかわらず時速約30〜40kmで漫然と直進した。そこへ、赤色点滅信号を無視し、酒気を帯びた状態で法定速度を大幅に超える時速約70km、かつ携帯電話を拾うため前方不注視のまま走行してきたA車両が被告人車の側面に衝突し、同乗者を死傷させた。一・二審は、被告人が時速10〜15kmに徐行していれば衝突を回避可能であったとして有罪とした。
あてはめ
実況見分に基づく実験結果では、時速10〜15kmに減速していればA車を視認できる地点が存在したとされる。しかし、黄色点滅信号を進行する者にとって、赤色点滅信号を無視して時速約70kmもの高速で進入する車両を想定することは困難である。夜間に視認してから危険を察知し、急制動を講じるまでの反応時間を考慮すれば、仮に徐行していても衝突地点手前で停止できたと断定することは困難である。したがって、適切な回避措置を講じていれば事故を回避できたという事実について、合理的な疑いが残る。
結論
被告人が徐行義務を尽くしていても結果を回避できたとは断定できず、結果回避可能性の証明が不十分であるため、無罪。
実務上の射程
交通事故における「徐行義務違反」等の形式的な過失がある場合でも、相手方の異常な運転態様を考慮し、結果回避可能性を否定して無罪とした事例である。司法試験の答案では、過失の検討において、注意義務違反の存否だけでなく、その義務を尽くした場合の具体的・客観的な回避可能性(因果関係の側面)を慎重に検討する際のモデルとなる。
事件番号: 昭和43(あ)373 / 裁判年月日: 昭和44年4月25日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】業務上の注意義務は、他者の異常な行動を予見して自ら危険な回避行動をとることまでを当然に要求するものではなく、回避措置が他の法益を危うくする場合は過失が否定される。 第1 事案の概要:被告人は貨物自動車を運転中、自転車2台を追い越すため道路中央から右側へ50cmはみ出して進行した。その際、前方約34…