交差する左方の道路で、しかも交差する道路(優先道路を除く。)の幅員より明らかに広い幅員の道路から、交通整理の行なわれていない交差点にはいろうとする自動車運転者としては、その時点において、自己が道路交通法六八条に違反して時速八〇キロメートルで運転をしていたとしても、交差する右方の道路から交差点にはいろうとする車両等が交差点の入口で徐行し、かつ、自車の進行を妨げないように一時停止するなどの措置に出るであろうことを信頼して交差点にはいれば足り、本件被害者のように、あえて交通法規に違反して、交差点にはいり、無謀に自者の前を横切る車両のありうることまでも予想して、減速徐行するなどの注意義務はない。
道路交通法六八条に違反して時速八〇キロメートルで運転をしていた自動車運転者にいわゆる信頼の原則が適用された事例
刑法211条,道路交通法35条,道路交通法36条,道路交通法68条
判旨
交通整理の行なわれていない交差点において、優先通行権を有する運転者は、相手方が交通法規に違反して無謀に自車の前を横切る事態まで予想して減速・徐行すべき注意義務を負わない。
問題の所在(論点)
優先道路を走行する運転者が、劣後道路から進入しようとする車両の法規違反(一時停止不履行等)を予見し、減速・徐行すべき業務上の注意義務を負うか。
規範
自動車運転者において、他の交通関与者が交通法規を遵守した適切な行動をとることを信頼するのが相当といえる状況下では、あえて交通法規に違反する無謀な行動をとることまでを予見し、これによる事故を回避すべき注意義務はない(信頼の原則)。
重要事実
被告人は、時速80km(法定速度60km)で国道を走行中、右方の幅員が明らかに狭い農道から交差点に接近する被害者の単車を発見したが、被害者が一時停止して自車を優先させるものと信頼して進行した。しかし、被害者は一時停止せず交差点に進入し、被告人の車両と衝突して死亡した。
あてはめ
道路交通法上、被告人は被害者の左方におり、かつ被告人の走行する国道は農道の約3.2倍の幅員があった。被害者には徐行および一時停止の義務があり、被告人が「被害者は一時停止して自車を優先させる」と信頼することは当然である。衝突直前に被害者が突然進入した事態は予見困難であり、被告人が速度超過していた事実はあるものの、本件のような無謀な車両の出現まで予想して減速すべき義務はない。
結論
被告人は業務上過失致死罪について無罪(速度超過による道路交通法違反のみ有罪)。
実務上の射程
交通過失事案における「信頼の原則」を認めたリーディングケース。優先道路走行中や信号遵守中の運転者の注意義務を限定する際に用いる。ただし、相手方が幼児や高齢者である場合、または法規違反を予見すべき具体的な状況がある場合には適用が制限される点に注意する。
事件番号: 昭和41(あ)1831 / 裁判年月日: 昭和42年10月13日 / 結論: その他
幅員約10メートルの一直線で見通しがよく、他に往来する車両のない道路のセンターラインの若干左側から、進路の右側にある小路にはいるため、右折の合図をしながら、右折を始めようとする原動機付自転車の運転者としては、後方から来る他の車両の運転者が、交通法規を守り、速度をおとして自車の右折を待つて進行する等、安全な速度と方法で進…
事件番号: 昭和43(あ)490 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 破棄差戻
交差点において、青信号により発進する自動車運転者としては、特別な事情のないかぎり、赤信号を無視して右交差点に進入してくる車両のありうることまでも予想すべき業務上の注意義務はないものと解すべきである。