けん引自動車の運転者が、幅約二・二三米、長さ約五・一五米のけん引車に幅約二・八五米、長さ約九・六米の被けん引車を連結して運転し、時速約五粁の速度で、外側は山腹、内側は高さ約五米の崖となつている幅員約三・九米の山道曲路にさしかかり、その曲路内側の路傍に立ちどまつて避譲している通行人を発見した場合において、減速して、車輛の通過地点と余剰空間との関係、避譲者の挙動姿勢等に注意しながら通過するか、又は一旦停車し、避譲者を安全な地点に移してから通過する等事故発生防止の措置をとることなく、漫然従前の速度で進行を続け、被けん引車後車輪を曲路内縁と約〇・六米しか隔たらぬ箇所を通過させた結果、右被譲者をして、ろうばいして進退を誤り崖下に転落し創傷を負うにいたらせたときは、たとえ車体が避譲者の身体に接触することがなかつたとしても、業務上過失傷害罪が成立する。
業務上過失傷害罪が成立するとされた事例。
刑法211条前段
判旨
業務上過失致死傷罪等の過失犯において、被告人が置かれた具体的状況に基づき、事故発生を未然に防止すべき注意義務が認められる場合には、当該義務に違反した過失責任を問うことができる。
問題の所在(論点)
刑法上の過失犯において、具体的状況下における事故発生防止のための注意義務が認められるか否か。
規範
過失犯の成立要件としての注意義務の存否は、行為当時の具体的状況に基づき、結果発生の予見可能性および回避可能性を前提として、当該事故を未然に防止すべき義務が認められるか否かによって判断される。
重要事実
被告人は、何らかの事故(本件事故)を発生させたとして業務上過失致死傷罪等の責任を問われた。第一審または控訴審において、当時の具体的状況に照らし、被告人には事故を未然に防止すべき注意義務があったと判断された。これに対し、被告人側は判例違反や事実誤認を理由に上告したが、具体的な事故の態様や過失の内容については、本判決文からは不明である。
あてはめ
原判決が認定した当時の状況によれば、被告人は事故の発生を予見し、それを回避するために必要な措置を講じるべき立場にあった。したがって、原判決が被告人に本件事故発生を未然に防止すべき注意義務があると判断したことは正当であり、その義務を怠った以上、過失責任が認められる。なお、弁護人が主張する判例違反は事案を異にするものであり、事実誤認等の主張も適法な上告理由に当たらない。
結論
被告人に事故防止の注意義務があるとした原判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
本判決は決定理由において簡潔に注意義務の正当性を肯定しているに過ぎないが、実務上は「具体的状況下での事故防止義務」の有無が過失犯の成否を分けることを再確認するものとして機能する。答案上は、事案の具体的状況(現場の視認性、速度、先行行為等)から予見可能性・回避可能性を導き、具体的注意義務を特定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)638 / 裁判年月日: 昭和32年6月8日 / 結論: 棄却
一 乗合自動車運転者は、停留所発車に際し、単に乗務車掌の発車合図に従い警笛を吹鳴するをもつて足れりとせず、自身また車掌を督励して、車体の前後左右に人影の存否を確め、若し車体附近に人影を発見したときは、これを安全地帯に退避せしめた上発車すべき義務があるものと解するのを相当とする。 二 乗合自動車運転者たる被告人が、停留所…