一 乗合自動車運転者は、停留所発車に際し、単に乗務車掌の発車合図に従い警笛を吹鳴するをもつて足れりとせず、自身また車掌を督励して、車体の前後左右に人影の存否を確め、若し車体附近に人影を発見したときは、これを安全地帯に退避せしめた上発車すべき義務があるものと解するのを相当とする。 二 乗合自動車運転者たる被告人が、停留所発車に際し、かかる措置をとることなく、単に乗務車掌の発車合図による漫然ハンドルを右に切りつつ発車進行したため、発車の際該自動車車体右側間近かに佇立していた被害者に気付かず、同人を押し倒し、地上に転倒せしめた上右側後車輪をもつて轢き因つて即死せしめたときは、業務上過失致死罪が成立する。
一 乗合自動車運転者の業務上の注意義務 二 業務上過失致死罪の成立する一事例
刑法211条
判旨
刑事裁判における過失犯の成立について、被告人が注意義務を尽くしていたか否かは事実認定の問題であり、これを否定した原判決の判断が正当であれば、事実誤認を理由とする上告は認められない。
問題の所在(論点)
刑法上の過失犯において、被告人が注意義務を尽くしたといえるか、あるいは過失が認められるかという事実認定の正当性。
規範
過失の有無(注意義務違反)の判断は、具体的な事案における諸般の事情を総合考慮して行われる事実認定の問題である。
重要事実
被告人が注意義務を尽くし、過失がなかったと主張して上告を申し立てた事案。原判決(二審)は被告人の過失を肯定する判断を下していた。
あてはめ
最高裁判所は、記録に照らせば本件における被告人の注意義務に関する原判決の判示は正当であると認めた。被告人の主張は実質的に事実誤認をいうものであり、適法な上告理由に当たらないと評価された。
結論
被告人の過失を認めた原判決の判断に誤りはなく、上告を棄却する。
実務上の射程
本決定は、過失の認定が事実認定の範疇であることを再確認するものである。答案作成においては、具体的注意義務の内容を特定した上で、事実関係に基づきその義務違反の有無を論証する際、原審の認定プロセスの正当性を検討する指針となる。
事件番号: 昭和29(あ)3470 / 裁判年月日: 昭和31年11月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】業務上の注意義務に違反して事故を起こした被告人に対し、具体的な過失の存在を認めた原審の判断を正当として上告を棄却したものである。 第1 事案の概要:被告人が業務中に事故を起こした事案。原審は被告人に業務上の過失があったと認定したが、弁護人は事実誤認および法令違反を理由として上告を申し立てた。なお、…