刑事事件の被疑者の1人として逮捕、勾留され、上記刑事事件について起訴されたが、無罪判決を受けたXが、上記の逮捕、勾留及び起訴が違法であると主張して国家賠償を求める本案訴訟において、検察官がAを上記刑事事件の被疑者の1人として取り調べる際にAの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体のうちXに係る上記刑事事件の公判において取り調べられなかった部分について、民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由として文書提出命令の申立てをした場合に、刑訴法47条に基づきその提出を拒否した上記部分の所持者である国の判断は、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものである。 ⑴ 上記本案訴訟においては、AがXとの共謀の有無に関連して従前と異なる供述をするに至ったことに対する検察官Bの言動の影響の有無、程度、内容等が深刻に争われているところ、その審理を担当する原々審は、上記部分がBのAに対する取調べの具体的状況及び内容を立証するのに最も適切な証拠であり、上記記録媒体の一部分の反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして、上記部分を取り調べる必要性の程度が高いと判断した。 ⑵ Xが、Aに対し、Aが上記の供述をしたこと等によりXをえん罪に陥れたと主張して損害賠償を求める訴訟において、XとAとの間に訴訟上の和解が成立し、上記和解において、Aが上記記録媒体の証拠採用に反対せず、XもAのプライバシーの保護に最大限配慮することを明確に合意している。 ⑶ 上記刑事事件に関与したとされる者のうち、Xについては無罪判決が確定し、X以外の者について捜査や公判が続けられていることもうかがわれない。 (補足意見がある。)
検察官が被疑者として取り調べた者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体が、民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当するとして文書提出命令の申立てがされた場合に、刑訴法47条に基づきその提出を拒否した上記記録媒体の所持者である国の判断が、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとされた事例
民訴法220条3号、刑訴法47条、刑訴法301条の2
判旨
刑事訴訟法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する取調べ録音録画媒体であっても、民訴法220条3号後段の法律関係文書に該当し、民事訴訟での証拠調べの必要性が高く、かつ開示による弊害のおそれがない等の事情がある場合には、提出拒否は裁量権の逸脱・濫用となる。
問題の所在(論点)
刑訴法47条の「訴訟に関する書類」にあたる取調べ録音録画媒体について、民訴法220条3号後段に基づき提出を命ずるための要件と、本件における検察官の提出拒否の適否。
事件番号: 平成15(許)40 / 裁判年月日: 平成16年5月25日 / 結論: 破棄自判
1 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても,当該文書が民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当し,かつ,当該文書の保管者によるその提出の拒否が,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる被告人,被疑者等…
規範
刑訴法47条ただし書の公開可否は保管者の合理的な裁量に委ねられる。民訴法220条3号後段の法律関係文書に該当する場合、提出拒否が(1)民事訴訟における取調べの必要性の有無・程度、(2)開示による弊害(名誉・プライバシー侵害、捜査・公判への不当な影響等)発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、裁量権の範囲を逸脱又は濫用と認められるときは、裁判所は提出を命ずることができる。これは取調べの録音録画媒体についても同様である。
重要事実
業務上横領事件で無罪が確定した抗告人が、国賠訴訟において検察官の取調べが違法であったと主張し、共犯者Aの取調べ録音録画媒体(本件公判不提出部分)の文書提出命令を申し立てた。当該媒体には検察官の怒鳴り声や机を叩く等の非言語的要素が記録されている。Aとの間では、本件媒体の証拠採用に反対せず、プライバシー保護の措置を講じる旨の訴訟上の和解が成立していた。
あてはめ
(1)必要性:検察官の言動が供述に与えた影響が深刻に争われており、非言語的要素を正確に記録した本件媒体は、反訳書面や人証に比して格段に情報量が多く、代替困難な最も適切な証拠であり、必要性は高い。(2)弊害:Aとの和解により名誉・プライバシー侵害のおそれはなく、関係者の公判も全て終了しているため、将来の捜査等への影響も具体的想定ができない。以上より、これらを考慮せず提出を拒否した判断は裁量の逸脱・濫用にあたる。
結論
本件記録媒体(公判不提出部分)は提出義務を負う法律関係文書に該当し、提出拒否は裁量権の逸脱・濫用となるため、文書提出命令を発すべきである。
実務上の射程
刑事事件の取調べ可視化媒体を民事(国賠等)で用いる際の判断枠組みを明示した。特に「法律関係文書」としての性質を認めつつ、刑訴法47条の裁量と民訴上の証拠提出義務の調整を図る実務上の指針となる。
事件番号: 平成19(許)22 / 裁判年月日: 平成19年12月12日 / 結論: その他
1 検察官が被疑者の勾留請求に当たって刑訴規則148条1項3号所定の資料として裁判官に提供した告訴状及び被害者の供述調書は,いずれも,上記各文書を所持する国と上記請求により勾留された者との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する。 2 強姦の被疑事実に基づき勾留された被疑者が,勾留請求の違法を…
事件番号: 平成17(許)4 / 裁判年月日: 平成17年7月22日 / 結論: その他
1 警察官が文書提出命令の申立人の住居等において行った捜索差押えに係る捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書は,いずれも,当該警察官が所属し,上記各文書を所持する地方公共団体と文書提出命令申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する。 2 民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当…
事件番号: 平成30(許)7 / 裁判年月日: 平成31年1月22日 / 結論: 破棄差戻
1 刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書について文書提出命令の申立てがされた場合であっても,当該文書が民訴法220条1号所定のいわゆる引用文書に該当し,かつ,当該文書の保管者によるその提出の拒否が,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる被告人,被疑者等の名…
事件番号: 平成26(行フ)3 / 裁判年月日: 平成26年10月29日 / 結論: 破棄自判
岡山県議会の議員が県から交付された政務調査費の支出に係る1万円以下の支出に係る領収書その他の証拠書類等及び会計帳簿は,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,民訴法220条4号ニ所定の「専ら文書の所持者の利用に供するための文書」に当たらない。 (1) 岡山県議会の政務調査費の交付に関する条例(平成13年岡山県条例第4…