退任取締役の退職慰労金につき、退任時の報酬月額等により一義的に定まる額を基準とするが、退任取締役のうち在任中特に重大な損害を与えたものに対しこの基準額を減額することができること等を定める内規が存在する株式会社の株主総会において、取締役を退任する者の退職慰労金について、上記内規に従って決定することを取締役会に一任する旨の決議がされた場合に、次の⑴~⑷など判示の事情の下では、上記会社の取締役会がした、上記の者に対し、同人の退職慰労金に係る基準額として算出した3億7720万円から減額した額である5700万円の退職慰労金を支給する旨の決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということはできない。 ⑴ 上記取締役会は、上記の者が、代表取締役在任中に、①長期間にわたって上記会社から社内規程所定の上限額を超過する額の宿泊費等を受領し、このことが発覚した後には、いったん負担した当該超過分に係る源泉徴収税相当額を上記会社に転嫁するとともに、社内規程に違反する宿泊費等の支給を実質的に永続化する目的で自らの報酬を増額したこと、②複数年度にわたり、交際費として従前の支出額を大幅に超過する額を上記会社に支出させるなどしたこと等を考慮して上記決議をした。 ⑵ 上記の者と利害関係のない弁護士等で構成された調査委員会による調査等の結果をとりまとめた調査報告書では、上記①の行為は特別背任罪に該当する疑いがあり、上記②の行為も正当化することができず、上記の者はこれらの行為により上記会社に多大な損害を与えたとの指摘がされた。 ⑶ 上記決議は上記調査報告書の内容を踏まえたものであったところ、上記調査委員会が調査等に当たって収集した情報に不足があったことはうかがわれない。 ⑷ 上記取締役会は、上記①の行為につき告訴をして退職慰労金を支給しないとする上記調査委員会から提示された案も検討したが、審議の結果、告訴をせずに退職慰労金を大幅に減額する旨の判断に至った。
退任取締役の退職慰労金について内規に従って決定することを取締役会に一任する旨の株主総会決議がされた場合に、上記退任取締役に対し上記内規の定める基準額から減額した退職慰労金を支給する旨の取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるとはいえないとされた事例
会社法361条1項1号
判旨
取締役会が株主総会の委任を受けて退職慰労金の額を決定する場合、退職取締役の不正行為等による減額の是非やその額の決定については、取締役会に広い裁量権が認められる。その判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理である場合に限り、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。
問題の所在(論点)
株主総会から退職慰労金の決定を一任された取締役会が、内規の減額規定に基づき支給額を大幅に減額した決議について、裁量権の逸脱又は濫用(会社法350条等の損害賠償責任の成否)が認められるか。
事件番号: 平成21(受)1154 / 裁判年月日: 平成22年3月16日 / 結論: 破棄差戻
株主総会の決議を経て,役員に対する退職慰労金の算定基準等を定める会社の内規に従い支給されることとなった会社法361条1項にいう取締役の報酬等に当たる退職慰労年金について,退任取締役相互間の公平を図るため集団的,画一的な処理が制度上要請されているという理由のみから,上記内規の廃止の効力を既に退任した取締役に及ぼし,その同…
規範
株主総会から内規に従った退職慰労金決定の委任を受けた取締役会は、内規の減額規定の適用有無や減額後の支給額の決定について広い裁量権を有する。取締役会は、取締役の職務執行を監督する見地から、当該取締役の行為の内容・性質、会社が受けた影響、地位等を総合考慮して判断すべきである。したがって、取締役会の決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるといえるのは、その判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理である場合に限られる。
重要事実
代表取締役であった被上告人は、在任中に社内規程に違反する宿泊費等の受領、自己の報酬の不当な増額(本件行為1)、多額の交際費支出等(本件行為2、3)を行い、会社に損害を与えた。株主総会は、内規に従い取締役会に慰労金決定を一任する決議をした。取締役会は、第三者による調査報告書に基づき、本件行為1が特別背任罪に該当し得る悪質なものであること等を考慮し、基準額約3億7720万円から、本件各行為による損害額の約90%を控除した5700万円を支給する旨を決議した。
あてはめ
本件行為1は会社報酬の不当な利得を目的とし、社会的信用の毀損も大きい。取締役会は、独立性のある調査委員会の詳細な報告書に基づき、告訴の見送り等も検討した上で相当程度実質的な審議を経て本件決議を行っている。本件行為3の損害該当性に疑義があるとしても、本件行為1・2のみで「特に重大な損害を与えた」との評価には合理的根拠がある。よって、基準額から大幅な減額を行った判断は、株主総会の委任の趣旨に照らして不合理とはいえない。
結論
本件取締役会決議に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえず、被上告人の損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
退職慰労金の決定に関する取締役会の裁量を広く認めた判例である。内規に減額の範囲の定めがない場合でも、監督的見地からの総合考慮による大幅減額を肯定しており、実務上は「不合理性」の有無を判断する際の、調査手続の適正さや審議の実質性が重要な考慮要素となる。
事件番号: 平成19(受)478 / 裁判年月日: 平成19年11月16日 / 結論: 棄却
会社の従業員であった者が退職して執行役員に就任し,その後退任した場合において,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,会社が従前支給してきた内規所定の金額の退職慰労金は,功労報償的な性格が極めて強く,執行役員退任の都度,代表取締役の裁量的判断により支給されてきたにすぎないものであり,上記の者が会社に対し退職慰労金の支…
事件番号: 昭和44(オ)609 / 裁判年月日: 昭和44年10月28日 / 結論: 棄却
株式会社の役員であつた者に対する退職慰労金について、株主総会の決議により、その金額などの決定をすべて無条件に取締役会に一任することは許されないというべきであるが、これと異なり、株主総会の決議において、明示的もしくは黙示的に、その支給に関する基準を示し、具体的な金額、支払期日、支払方法などは右基準によつて定めるべきものと…
事件番号: 令和4(行ヒ)274 / 裁判年月日: 令和5年6月27日 / 結論: 破棄自判
1 裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一の立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際にされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたこ…