労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項所定の事業の事業主は、当該事業についてされた同項所定の労働者災害補償保険法(令和2年法律第14号による改正前のもの)の規定による業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟の原告適格を有しない。
労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項所定の事業についてされた業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟と事業主の原告適格
行政事件訴訟法9条1項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律15条1項、3項、労働保険の保険料の徴収等に関する法律19条1項、3項、4項、労働者災害補償保険法(令和2年法律第14号による改正前のもの)7条1項1号、労働者災害補償保険法12条の8第1項、2項
判旨
特定事業の事業主は、労災保険給付の支給決定(労災支給処分)の取消しを求める原告適格(行政事件訴訟法9条1項)を有しない。労働保険料の額を左右するメリット収支率の算定において、客観的に支給要件を満たさない給付額は基礎とならないため、労災支給処分が当然に事業主の保険料増額に直結するわけではないからである。
問題の所在(論点)
労災保険のメリット制が適用される「特定事業」の事業主は、労働者に対してなされた労災支給処分の取消しを求めるにつき、行政事件訴訟法9条1項の原告適格を有するか。
規範
行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。第三者が原告適格を有するか否かは、当該処分の根拠法規の趣旨・目的を検討し、その利益が法的に保護された利益といえるか、あるいは処分によって当然にその利益が侵害される関係にあるかによって判断する。
重要事実
事件番号: 平成26(行ヒ)494 / 裁判年月日: 平成28年7月8日 / 結論: 破棄自判
労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当た…
事業主である被上告人は、従業員(補助参加人)に対してなされた労災保険給付の支給決定(本件各処分)の取消しを求めて提訴した。被上告人は、メリット制(徴収法12条3項)に基づき、本件各処分によって納付すべき労働保険料が増額されるおそれがあるため、取消しを求める原告適格を有すると主張した。原審はこれを認めたが、国が上告した。
あてはめ
1. 労災保険法の趣旨:労災支給処分は被災労働者の迅速な保護を目的とし、処分によって早期に法律関係を確定させるべきなのは労働者との関係に限定される。事業主の保険料算定の基礎となる法律関係まで確定する趣旨ではない。 2. 徴収法の趣旨:メリット制は事業主間の公平と災害防止努力の促進を目的とする。客観的に支給要件を満たさない給付額を保険料算定の基礎とすることはこの趣旨に反する。 3. 予見性:客観的に要件を満たさない給付額はメリット収支率の算定から除外されるべきであり、労災支給処分がなされたからといって当然に保険料決定に影響を及ぼす(必然的に侵害される)とはいえない。
結論
特定事業の事業主は、労災支給処分の取消訴訟の原告適格を有しない。事業主は、後になされる自己への「保険料認定処分」の取消訴訟等において、給付額の算定根拠の違法を主張すれば足り、手続保障も図られている。
実務上の射程
労働者に対する授益的処分が事業主の負担増につながるという反射的利益・不利益の関係において、原告適格を否定した重要な判例。本判決は、労災支給処分の違法性を「後の保険料認定処分」の中で主張できるとしているため、先行処分の違法性の承継の議論や、独立した原告適格の判断において、侵害の「必然性」を厳格に解する論理として活用できる。
事件番号: 平成11(行ヒ)99 / 裁判年月日: 平成15年9月4日 / 結論: 破棄自判
労働基準監督署長が労働者災害補償保険法(平成11年法律第160号による改正前のもの)23条に基づいて行う労災就学援護費の支給に関する決定は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たる。
事件番号: 平成7(行ツ)65 / 裁判年月日: 平成8年11月28日 / 結論: 棄却
自己の所有するトラックを持ち込んで特定の会社の製品の運送業務に従事していた運転手が、自己の危険と計算の下に右業務に従事していた上、右会社は、運送という業務の性質上当然に必要とされる運送物品、運送先及び納入時刻の指示をしていた以外には、右運転手の業務の遂行に関し特段の指揮監督を行っておらず、時間的、場所的な拘束の程度も、…
事件番号: 平成4(行ツ)68 / 裁判年月日: 平成7年7月6日 / 結論: 破棄自判
労働者災害補償保険法による保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から三箇月を経過しても決定がないときは、審査請求に対する決定及び労働保険審査会に対する再審査請求の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
事件番号: 昭和58(行ツ)4 / 裁判年月日: 昭和58年10月13日 / 結論: 破棄差戻
労働者災害補償保険法一四条一項所定の休業補償給付は、労働者が業務上の傷病による療養のため労働不能の状態にあつて賃金を受けることができない場合であれば、休日、出勤停止の懲戒処分等のため雇用契約上賃金請求権が発生しない日についても、支給される。