労働者災害補償保険法による保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をした日から三箇月を経過しても決定がないときは、審査請求に対する決定及び労働保険審査会に対する再審査請求の手続を経ないで、処分の取消しの訴えを提起することができる。
労働者災害補償保険法による保険給付に関する処分について審査請求をした日から三箇月を経過しても決定がないときに再審査請求の手続を経ないで処分の取消しの訴えを提起することの可否
労働者災害補償保険法35条1項,労働者災害補償保険法37条,行政事件訴訟法8条1項,行政事件訴訟法8条2項1号
判旨
二段階の審査請求手続が定められ、かつ再審査請求に対する裁決の前置が義務付けられている場合でも、第一段階の審査請求から3か月を経過して裁決がないときは、行政事件訴訟法8条2項1号により、直ちに処分の取消しの訴えを提起できる。
問題の所在(論点)
労働者災害補償保険法のように二段階の審査請求を経てからでなければ提訴できないとされる「再審査請求裁決前置主義」が採られている場合において、行政事件訴訟法8条2項1号にいう「審査請求があった日から三箇月を経過しても裁決がないとき」の「審査請求」に、第一段階の審査請求が含まれるか。
規範
行政事件訴訟法8条2項1号は、裁決庁の裁決遅延による司法救済の遅れを回避するための規定である。したがって、法律に特段の定めがない限り、二段階の不服申立て手続が予定されている場合であっても、同号の「審査請求」には第一段階の審査請求と第二段階の審査請求のいずれもが含まれる。これにより、いずれの段階であっても裁決が3か月以上遅延した場合には、裁決前置主義が緩和され、直接訴えを提起することが認められる。
重要事実
上告人は、労災保険給付の不支給決定(本件処分)を受け、労働者災害補償保険審査官に対し第一段階の審査請求を行った。しかし、当該審査請求から3か月以上が経過しても決定がなされなかったため、第二段階の再審査請求およびその裁決を経ることなく、本件処分の取消しを求める訴えを提起した。原審は、法8条2項1号の「審査請求」は再審査請求を指すとして、本件訴えを不適法却下した。
事件番号: 平成4(行ツ)68 / 裁判年月日: 平成7年7月6日
【結論(判旨の要点)】行政処分について二段階の不服申立てと裁決前置主義が採られている場合、法律に特段の定めがない限り、第一段階の審査請求から3か月を経過しても決定がないときは、例外として裁決を経ずに取消訴訟を提起できる(行政事件訴訟法8条2項1号)。 第1 事案の概要:上告人は、労働者災害補償保険法(労災法)に基づき療…
あてはめ
労災保険法において二段階の審査請求が定められた趣旨は、専門的機関による迅速かつ公正な権利救済にあるが、第一段階の審査請求が遅延した場合に司法救済を認めないことは国民の権利を不当に制限する。同法には、第一段階の決定遅延に対する特段の救済措置や法8条2項1号の適用を除外する旨の規定も存在しない。したがって、第一段階の審査請求から3か月が経過した本件においては、同号の要件を満たしており、裁決前置主義の例外として適法な提訴といえる。
結論
法8条2項1号の「審査請求」には第一段階の審査請求も含まれるため、本件訴えは適法であり、却下した原判決は破棄されるべきである。
実務上の射程
裁決前置主義が採られている他の行政訴訟(国税通則法に特段の定めがある場合を除く)においても、不服申立てが停滞した場合の司法救済の途を確保するための基準として活用できる。答案上は、裁決前置の有無を確認した上で、例外規定(法8条2項各号)の解釈として提示する。
事件番号: 昭和56(行ツ)43 / 裁判年月日: 昭和56年9月24日 / 結論: 棄却
地方公務員災害補償基金の従たる事務所の長がした補償に関する決定の取消の訴は、地方公務員災害補償基金審査会に対する再審査請求の裁決を経た上で提起しなければならない。
事件番号: 昭和28(オ)251 / 裁判年月日: 昭和30年1月28日 / 結論: 破棄自判
保険給付に関する決定および保険審査官のした審査決定についての、労働者災害補償保険審査会に対する審査請求が不適法として却下された場合は、右却下決定が正当である以上、右保険給付に関する決定および保険審査官の決定の取消を求める訴は不適法である。
事件番号: 平成24(行ヒ)20 / 裁判年月日: 平成24年11月20日 / 結論: 破棄自判
収用委員会の裁決につき審査請求をすることができる場合において,審査請求がされたときは,収用委員会の裁決の取消訴訟の出訴期間は,土地収用法133条1項ではなく行政事件訴訟法14条3項の適用により,その審査請求に対する裁決があったことを知った日から6か月以内かつ当該裁決の日から1年以内となる。
事件番号: 令和5(行ヒ)108 / 裁判年月日: 令和6年7月4日 / 結論: 破棄自判
労働保険の保険料の徴収等に関する法律(令和2年法律第14号による改正前のもの)12条3項所定の事業の事業主は、当該事業についてされた同項所定の労働者災害補償保険法(令和2年法律第14号による改正前のもの)の規定による業務災害に関する保険給付の支給決定の取消訴訟の原告適格を有しない。