保険給付に関する決定および保険審査官のした審査決定についての、労働者災害補償保険審査会に対する審査請求が不適法として却下された場合は、右却下決定が正当である以上、右保険給付に関する決定および保険審査官の決定の取消を求める訴は不適法である。
労働者災害補償保険審査会に対する審査請求が不適法として却下された場合における原決定の取消を求める訴の適否
労働者災害補償保険法19条,労働者災害補償保険法35条,労働者火災補償保険法40条,行政事件訴訟特例法2条,行政事件訴訟特例法5条
判旨
不服申立前置が定められている場合、法定の期間経過後にされた不適法な不服申立てに対する却下裁決を経て提起された取消訴訟は、特段の事情がない限り、前置要件を欠く不適法な訴えとなる。
問題の所在(論点)
法律が行政上の審査決定(裁決)を経ることを訴訟提起の要件としている場合(不服申立前置主義)、期間経過により不適法として却下された審査決定を経ることで、訴訟における前置要件を満たしたといえるか。
規範
行政庁の決定に対する不服申立期間を定めた規定は、その期間経過後は原則として決定の当否を争わせない趣旨である。したがって、期間経過後の不適法な審査請求に対し、審査会が却下決定をした場合、その却下決定自体に違法がない限り、当該決定を経て提起された訴訟において原決定の当否を争うことは許されない(不服申立前置要件を実質的に欠く)。
重要事実
労働者災害補償保険法に基づく保険給付に関する決定に対し、被上告人は同法35条に基づき審査請求を行った。しかし、当該請求は法定の請求期間(60日)を5ヶ月以上経過してなされたものであった。審査会はこれを不適法として却下したが、被上告人は当該却下決定を経て、原決定の取消しを求める訴えを提起した。第一審・二審は本訴を適法として審理し、原決定を取り消したため、上告人が訴えの適法性を争い上告した。
事件番号: 昭和27(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和31年10月30日 / 結論: 棄却
労働基準法(昭和三一年六月法律第一二六号による改正前)第八五条による災害補償に関する行政官庁の審査の結果は行政事件訴訟特例法第一条にいう行政処分にあたらない。
あてはめ
本件における審査請求は、法定期間を大幅に経過した後に提起されており、不適法なものである。審査会が宥恕すべき事由を認めず不適法却下したことに対し、被上告人はその却下決定自体の適否を争っていない。このような不適法な不服申立てに対する却下決定をもって「審査決定を経た」と解すると、期間制限の規定が没却され、数年後でも訴訟が可能となる不合理な結果を招く。したがって、本件訴えは実質的に適法な審査決定を経ていないものと評価せざるを得ない。
結論
本件訴えは不服申立前置の要件を満たさない不適法な訴えであり、却下を免れない。
実務上の射程
行政事件訴訟法における不服申立前置(同法8条1項但書)の解釈に妥当する。形式的に裁決(却下裁決)さえあれば良いのではなく、適法な不服申立てにより実質的に前置要件を具備する必要があることを示す。答案では「適法な審査請求に対する裁決を経ていない」として訴えの適格を否定する際に引用する。
事件番号: 昭和30(オ)454 / 裁判年月日: 昭和34年6月26日 / 結論: 棄却
不当労働行為の救済申立を棄却する地方労働委員会の命令に対する出訴については、行政事件訴訟特例法第二条に従い、まず中央労働委員会への再審査申立の手続を経由すべきものであり、労働組合法第二七条第一一項は、右命令に対する不服方法として、中央労働委員会への再審査の申立と訴の提起とを選択的に認めた趣旨と解すべきではない。
事件番号: 昭和30(オ)184 / 裁判年月日: 昭和32年5月31日 / 結論: 棄却
一 労働者災害補償保険法施行の日から一年三箇月余を経過した後保険事故が発生し、その間所轄政府機関において同法の施行につき、当該加入者を含む各事業主に対し相当の周知徹底の方法を講じ、加入者が相当の注意を払えば同法の趣旨を容易に知り得べかりし状況にあつた場合には、労働者災害補償保険審査会が、同法運用の実情を考慮して、右加入…
事件番号: 昭和46(行ツ)86 / 裁判年月日: 昭和48年6月21日 / 結論: その他
一、恩給裁定についての審査請求が法定の期間経過後になされた不適法なものである場合には、たとえこれに対し実体審理のうえ棄却の裁決がなされても、右裁決は、恩給法一五条ノ二所定の「審査請求ニ対スル裁決」にあたらない。 二、行政庁が異議決定書に記載すべき審査請求期間の教示を怠つた場合にも、審査請求期間の進行が妨げられるものと解…