一 労働者災害補償保険法施行の日から一年三箇月余を経過した後保険事故が発生し、その間所轄政府機関において同法の施行につき、当該加入者を含む各事業主に対し相当の周知徹底の方法を講じ、加入者が相当の注意を払えば同法の趣旨を容易に知り得べかりし状況にあつた場合には、労働者災害補償保険審査会が、同法運用の実情を考慮して、右加入者に保険料を支払わなかつたことにつき重大な過失があるものと認定したことは、違法とはいえない。 二 労働者災害補償保険の加入者が故意または重大な過失により保険料の納付を怠つた場合における保険給付の制限の範囲および限度の決定は、政府の裁量に任されているものと解すべきである。
一 労働者災害補償保険加入者が重大な過失により保険料の納付を怠つたものとして政府において保険給付の一部を支給しないものとした労働者災害補償保険審査会の決定が違法でないとされた事例 二 労働者災害補償保険加入者が故意又は重大な過失によつて保険料の納付を怠つた場合に保険給付の制限につき政府の有する裁量権の範囲。
労働者災害補償保険法18条
判旨
労働基準監督署長が労働者災害補償保険法に基づき保険給付を行わない旨の決定をするにあたり、事業主が相当の注意を払えば同法の趣旨を容易に知り得た場合には、保険料未納について重大な過失があると認められる。また、同法に基づく保険給付の制限の範囲及び限度の決定は、政府の裁量に委ねられている。
問題の所在(論点)
労働者災害補償保険法(当時)18条の規定に関し、①事業主が保険料を納付しなかったことに「重大な過失」が認められるか、②保険給付の制限の範囲・限度の決定に政府の裁量権が認められるか。
規範
労働者災害補償保険法(当時)18条に基づく保険給付の制限において、事業主が保険料の納付を怠ったことにつき「重大な過失」があるか否かは、法の施行状況や周知徹底の程度に照らし、事業主が相当の注意を払えば法の趣旨を容易に知り得たかという観点から判断される。また、当該制限の範囲及び限度の決定は政府の裁量に属し、裁量権の逸脱・濫用がない限り適法となる。
事件番号: 昭和33(オ)606 / 裁判年月日: 昭和35年11月1日 / 結論: 棄却
保険加入者に労働者災害補償保険法第一九条にいう故意または重大な過失があるものとして保険給付の制限を決定することは、労働基準監督署長の専権に属するものではなく、右決定につき不服の申立があるかぎり、上級の審査機関である労働者災害補償保険審査官、労働保険審査会もまた制限するかどうかおよび制限の範囲につき決定することができる。
重要事実
事業主である上告人は、労災保険法施行から約1年3か月が経過した昭和24年1月に発生した事故に関し、保険料を未納であった。政府は、同法施行に際し各事業主に対して周知徹底の措置を講じていたが、上告人は保険料を納付していなかった。これに対し、政府(被上告人)は、葬祭料は負担するが遺族補償費は負担しない(保険給付を一部制限する)旨の審査決定を行ったため、上告人がその取り消しを求めて提訴した。
あてはめ
①について、本件事故は法施行から1年3か月余りを経過して発生しており、その間、所轄行政庁は事業主らに対し相当の周知徹底を図っていた。したがって、上告人は相当の注意を払えば同法の趣旨を容易に知り得たといえ、保険料未納につき「重大な過失」がある。政府が個別の納入告知を行っていなかった事実は、この過失の判断を左右しない。②について、保険給付を制限する範囲の決定は政府の裁量に委ねられるところ、本件処分は一部の給付(葬祭料)を維持しつつ他を制限するにとどまり、上告人に積極的に不利益を課すものでもない。したがって、裁量権の濫用は認められない。
結論
事業主の重大な過失を認め、保険給付を制限した政府の処分は適法である。上告人の請求を棄却した原判決に違法はない。
実務上の射程
行政庁の裁量権の広範性を認めた事例として、社会保障法・行政法分野で参照される。特に「重大な過失」の認定において、行政側の周知活動の状況から客観的に予見可能性を肯定する手法は、他の行政上の義務違反の判断にも応用し得る。
事件番号: 昭和27(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和31年10月30日 / 結論: 棄却
労働基準法(昭和三一年六月法律第一二六号による改正前)第八五条による災害補償に関する行政官庁の審査の結果は行政事件訴訟特例法第一条にいう行政処分にあたらない。
事件番号: 昭和35(オ)327 / 裁判年月日: 昭和36年1月31日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】上告の対象は原判決の当事者に限られるため、原判決の当事者でない者に対する上告は不適法であり、また上告理由書提出期間経過後の補充書に記載された理由は判断の対象とならない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人として「国」および「労働保険審査会」を指定して上告を提起した。しかし、原判決の当事者として「…
事件番号: 昭和28(オ)251 / 裁判年月日: 昭和30年1月28日 / 結論: 破棄自判
保険給付に関する決定および保険審査官のした審査決定についての、労働者災害補償保険審査会に対する審査請求が不適法として却下された場合は、右却下決定が正当である以上、右保険給付に関する決定および保険審査官の決定の取消を求める訴は不適法である。