保険加入者に労働者災害補償保険法第一九条にいう故意または重大な過失があるものとして保険給付の制限を決定することは、労働基準監督署長の専権に属するものではなく、右決定につき不服の申立があるかぎり、上級の審査機関である労働者災害補償保険審査官、労働保険審査会もまた制限するかどうかおよび制限の範囲につき決定することができる。
労働者災害補償保険法第一九条に基き保険給付を制限することは労働基準監督署長の専権か。
労働者災害補償保険法19条,労働者災害補償保険法35条,労働者災害補償保険法施行規則1条
判旨
労働者災害補償保険法19条に基づく保険給付の制限は労働基準監督署長の専権事項ではなく、保険審査会も制限の是非や程度について審査・裁量権を行使し得る。また、審査会による裁量権の行使により処分が変更されたことで不利益を受けていない場合、その違法を取消事由として主張することはできない。
問題の所在(論点)
労災保険法19条に基づく保険給付の制限は基準監督署長の専権事項であり、保険審査会は制限の有無を判断するにとどまり、制限の程度を独自に判断(変更)することはできないのか。
規範
労働者災害補償保険法19条(保険加入者に重過失がある場合の保険給付制限)の適用は、行政庁(労働基準監督署長)の専権に属する事項ではなく、不服申立てを受けた保険審査会においても、給付制限の可否およびその程度について審査し、独自の判断を下すことが可能である。
重要事実
保険加入者に重過失があるとして労働基準監督署長が保険給付の制限を決定した事案において、保険審査会が再審査請求を受け、原決定を変更して制限の程度を緩和する決定を行った。これに対し、行政側(上告人)は、給付制限の可否および程度の決定は署長の専権的な自由裁量事項であり、審査会にはその裁量権を審査する権限がないとして、審査会の決定の違法を主張した。
事件番号: 昭和35(オ)327 / 裁判年月日: 昭和36年1月31日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】上告の対象は原判決の当事者に限られるため、原判決の当事者でない者に対する上告は不適法であり、また上告理由書提出期間経過後の補充書に記載された理由は判断の対象とならない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人として「国」および「労働保険審査会」を指定して上告を提起した。しかし、原判決の当事者として「…
あてはめ
労災保険法19条の規定は、給付制限を基準監督署長の専権とする根拠にはならない。本件において保険審査会が裁量権を行使し、原決定を変更して給付制限の程度を緩和したことは、上告人(行政側)にとって利益をもたらすものであり、何ら不利益を課すものではない。したがって、審査会が裁量権を行使して内容を変更したこと自体を違法として取り消しを求める主張は、主張自体に理由がない。
結論
保険給付の制限は基準監督署長の専権事項ではなく、保険審査会による変更決定は適法である。また、不利益を受けていない者は当該処分の取消しを主張できないため、上告を棄却する。
実務上の射程
行政上の不服申立手続において、上級審査機関が下位機関の裁量判断を独自に再評価・変更することの可否を示す。答案上では、行政庁の専権事項の存否や、裁量処分の審査における不服申立機関の権限範囲が争点となる場面で活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)184 / 裁判年月日: 昭和32年5月31日 / 結論: 棄却
一 労働者災害補償保険法施行の日から一年三箇月余を経過した後保険事故が発生し、その間所轄政府機関において同法の施行につき、当該加入者を含む各事業主に対し相当の周知徹底の方法を講じ、加入者が相当の注意を払えば同法の趣旨を容易に知り得べかりし状況にあつた場合には、労働者災害補償保険審査会が、同法運用の実情を考慮して、右加入…
事件番号: 昭和27(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和31年10月30日 / 結論: 棄却
労働基準法(昭和三一年六月法律第一二六号による改正前)第八五条による災害補償に関する行政官庁の審査の結果は行政事件訴訟特例法第一条にいう行政処分にあたらない。