労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たる。 ⑴ 上記労働者が業務を一時中断して上記歓送迎会に途中から参加した後に事業場に戻ることになったのは,上司から歓送迎会への参加を打診された際に,業務に係る資料の提出期限が翌日に迫っていることを理由に断ったにもかかわらず,歓送迎会に参加してほしい旨の強い意向を示されるなどしたためであった。 ⑵ 上記歓送迎会は,事業主が事業との関連で親会社の中国における子会社から研修生を定期的に受け入れるに当たり,上司の発案により,研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであって,従業員及び研修生の全員が参加し,その費用が事業主の経費から支払われるなどしていた。 ⑶ 上記労働者は,事業主の所有する自動車を運転して研修生をその住居まで送っていたところ,研修生を送ることは,歓送迎会の開催に当たり,上司により行われることが予定されていたものであり,その経路は,事業場に戻る経路から大きく逸脱するものではなかった。
労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことが,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当たるとされた事例
労働者災害補償保険法1条,労働者災害補償保険法12条の8第2項,労働基準法79条,労働基準法80条
判旨
事業主が企画した懇親会への参加が、事業活動に密接に関連し、かつ労働者が参加を余儀なくされる状況にあった場合、その後の業務再開のための移動中に発生した事故は業務災害にあたる。
問題の所在(論点)
事業場外で開催された親睦目的の歓送迎会への中途参加、及びその終了後の移動中に発生した事故について、労働基準法79条及び労災保険法に基づく「業務上の事由」(業務遂行性)が認められるか。
規範
災害が労災保険法上の業務災害にあたるためには、労働者が労働契約に基づき事業主の支配下にある状態(業務遂行性)において発生したことが必要である。事業場外で開催される行事への参加であっても、その目的が事業活動に密接に関連し、事業主の意向等により参加を強制ないし事実上余儀なくされている場合には、行事への参加及びそれに付随する合理的経路での移動は事業主の支配下にあると解される。
事件番号: 平成6(行ツ)200 / 裁判年月日: 平成9年4月25日 / 結論: 破棄自判
配電工が、業務に従事中に、クレーンのワイヤーが切れ、ワイヤー、フック、電柱等の重量物が地上約三メートルの高さから付近に落下し、顔面に軽度の負傷をするという事故に遭った日の二日後に、非外傷性の脳血管疾患を発症し、その翌日に死亡した場合において、右配電工は、右発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、…
重要事実
金型メッキ業を営む会社で、社長代行のE部長が中国人研修生の歓送迎会を企画し、従業員全員に声をかけた。労働者Bは翌日期限の営業資料作成を理由に断ったが、Eから「今日が最後だから」と強く参加を打診され、終了後にEも協力して資料作成を再開する旨を伝えられたため、やむなく作業を中断して途中参加した。Bは飲酒せず、終了後に業務を再開するため自ら運転して工場へ戻る際、本来Eが行う予定であった研修生の送迎を代行してアパートへ向かう途中で衝突事故を起こし死亡した。
あてはめ
まず、本件歓送迎会は研修目的達成や関係強化を目的とし、費用も会社負担であることから事業活動に密接に関連する。次に、Bは期限の迫った業務があるにもかかわらず、社長代行のEから強い意向を示され、不参加が困難な状況下で業務を再開するために工場に戻ることを余儀なくされていた。これは職務上、一連の行動をとることを会社から要請されていたといえる。また、研修生の送迎は本来Eが予定していたものであり、工場への帰路から大きく逸脱しない範囲で行われた以上、会社から要請された行動の範囲内といえる。したがって、飲酒を伴う場外行事であっても、Bはなお会社の支配下にあったと評価できる。
結論
Bの死亡は業務上の事由による災害に該当し、不支給決定は違法として取り消されるべきである。
実務上の射程
社内行事に伴う事故について、単なる任意参加の私的親睦会か、実質的な強制力を持つ業務関連行事かを区別する際のリーディングケースである。特に「業務を一時中断して参加し、その後再開する」という文脈において、事業主による参加の心理的・事実上の強制力を重視して業務遂行性を肯定した点に特徴がある。
事件番号: 昭和57(行ツ)182 / 裁判年月日: 昭和59年5月29日 / 結論: 破棄自判
労働者が自己所有の自動車による自宅から工事現場への通勤の途上、衝突事故による災害を被つた場合に、他の公的交通機関を利用することが可能であり、右自動車の利用が特に必要でやむをえないものであつたとはいえないなど判示のような事実関係の下においては、右の形態の通勤をすることにつき事業主の意向が強く働いており、それが通勤時間及び…
事件番号: 昭和54(行ツ)24 / 裁判年月日: 昭和54年12月7日 / 結論: 棄却
山間僻地の発電所に勤務し右発電所と私宅間を社有車(日曜日等は社有車及びバス)を利用して通勤している者が、バスに乗り遅れ自己所有の原動機付自転車により出勤する途中受けた災害は、右の通勤方法が健に合理的な交通手段がないためのやむをえない代替方法といえるなど判示の事情のもとにおいては、使用者の支配管理下におかれているとみられ…
事件番号: 平成22(行ヒ)273 / 裁判年月日: 平成24年2月24日 / 結論: 棄却
建設の事業を行う事業主が,その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ,本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは,上記営業等の事業について,当該事業主が労働者災害補償保険法(平成12年法律第124号による改正前のもの)28条1項に基づく特別加入の承認を受けることはできず,上記営…
事件番号: 平成7(行ツ)53 / 裁判年月日: 平成11年10月12日 / 結論: 棄却
長年にわたりセメント原料等による粉じんの飛散している事業場等においてアーク溶接作業に従事しじん肺管理区分が管理三イと認められるじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者が原発性肺がんにより死亡した場合において、粉じん作業ないしじん肺と肺がんとの間の病理学的、疫学的因果関係の存否につき専門家の見解が分かれており、けい…