山間僻地の発電所に勤務し右発電所と私宅間を社有車(日曜日等は社有車及びバス)を利用して通勤している者が、バスに乗り遅れ自己所有の原動機付自転車により出勤する途中受けた災害は、右の通勤方法が健に合理的な交通手段がないためのやむをえない代替方法といえるなど判示の事情のもとにおいては、使用者の支配管理下におかれているとみられる特別の事情のもとにおいて生じたものとして、労働者災害補償保険法一条、一二条二項(昭和四八年法律第八五号による改正前のもの)の業務上の事由による災害にあたる。
出勤途中の災害が労働者災害補償保険法一条、一二条二項(昭和四八年法律第八五号による改正前のもの)の業務上の事由による災害にあたるとされた事例
労働者災害補償保険法(昭和48年法律第85号による改正前のもの)1条,労働者災害補償保険法(昭和48年法律第85号による改正前のもの)12条2項,労働基準法79条,労働基準法80条
判旨
通勤途上の災害であっても、勤務の性質や代替交通手段の不存在等の事情に照らし、労働者が出勤せざるを得ない状況下でやむを得ない方法により通勤していた場合には、使用者の支配管理下にある「業務上の事由」による災害と認められる。
問題の所在(論点)
改正前労災保険法の下において、通勤途上の災害が労働基準法上の「業務上の事由」による災害(業務災害)として認められるための要件。
規範
労働基準法上の「業務上の事由」による災害と認められるためには、労働者が使用者の支配管理下にあることが必要である。通勤途上の災害は原則としてこれに当たらないが、業務の内容、勤務場所の立地、代替交通手段の有無等の諸事情に照らし、労働者が使用者の支配管理下にあるとみられる「特別の事情」が認められる場合には、業務上の災害に該当する。
重要事実
発電所の土木係員Nは、山間僻地の勤務地へバスと社有車を乗り継ぎ通勤していた。ある日曜日、Nは予定のバスに乗り遅れたが、当日は労働組合の闘争により代わりの要員確保が困難であり、かつ発電所を無人にできない職務性質から、出勤せざるを得ない状況にあった。そこでNはやむを得ず自己所有の原動機付自転車で山間部を走行中、転落死した。当時の労災保険法(改正前)には通勤災害規定がなく、業務災害としての該当性が争われた。
事件番号: 昭和57(行ツ)182 / 裁判年月日: 昭和59年5月29日 / 結論: 破棄自判
労働者が自己所有の自動車による自宅から工事現場への通勤の途上、衝突事故による災害を被つた場合に、他の公的交通機関を利用することが可能であり、右自動車の利用が特に必要でやむをえないものであつたとはいえないなど判示のような事実関係の下においては、右の形態の通勤をすることにつき事業主の意向が強く働いており、それが通勤時間及び…
あてはめ
Nの勤務地は市街地から遠く離れた山間僻地であり、社有車やバス以外に通常の往復手段がない場所であった。事故当日は、Nが欠勤すれば発電所管理に支障を来す一方で、労働組合の闘争により代直者の獲得も困難であったことから、Nは「当日出勤せざるを得ない状況」にあったといえる。このような状況下での原動機付自転車による通勤は、他に合理的な交通手段がないための「やむを得ない代替方法」であったと評価できる。したがって、本件災害は労働者が使用者の支配管理下にあるとみられる「特別の事情」のもとで生じたものと解される。
結論
本件災害は、改正前労災保険法12条2項、労働基準法79条等の「業務上の事由による災害」に該当する。
実務上の射程
昭和48年の労災保険法改正により「通勤災害」が新設されたため、現在の実務で本判決が直接適用される場面は限定的だが、施設管理の必要性から生じる「業務遂行性」の判断枠組みとして、特殊な通勤形態(事業主が提供する専用車両以外の手段を強いられる場合など)における支配管理性の有無を検討する際の参考となる。
事件番号: 平成26(行ヒ)494 / 裁判年月日: 平成28年7月8日 / 結論: 破棄自判
労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当た…
事件番号: 平成6(行ツ)200 / 裁判年月日: 平成9年4月25日 / 結論: 破棄自判
配電工が、業務に従事中に、クレーンのワイヤーが切れ、ワイヤー、フック、電柱等の重量物が地上約三メートルの高さから付近に落下し、顔面に軽度の負傷をするという事故に遭った日の二日後に、非外傷性の脳血管疾患を発症し、その翌日に死亡した場合において、右配電工は、右発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、…
事件番号: 平成22(行ヒ)273 / 裁判年月日: 平成24年2月24日 / 結論: 棄却
建設の事業を行う事業主が,その使用する労働者を個々の建設等の現場における事業にのみ従事させ,本店等の事務所を拠点とする営業等の事業に従事させていないときは,上記営業等の事業について,当該事業主が労働者災害補償保険法(平成12年法律第124号による改正前のもの)28条1項に基づく特別加入の承認を受けることはできず,上記営…
事件番号: 平成7(行ツ)53 / 裁判年月日: 平成11年10月12日 / 結論: 棄却
長年にわたりセメント原料等による粉じんの飛散している事業場等においてアーク溶接作業に従事しじん肺管理区分が管理三イと認められるじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者が原発性肺がんにより死亡した場合において、粉じん作業ないしじん肺と肺がんとの間の病理学的、疫学的因果関係の存否につき専門家の見解が分かれており、けい…