長年にわたりセメント原料等による粉じんの飛散している事業場等においてアーク溶接作業に従事しじん肺管理区分が管理三イと認められるじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者が原発性肺がんにより死亡した場合において、粉じん作業ないしじん肺と肺がんとの間の病理学的、疫学的因果関係の存否につき専門家の見解が分かれており、けい酸ないしけい酸塩の発がん性についても消極に解するのが現時の支配的見解であるほか、肺結核ないし結核性はんこんと肺がんとの間の因果関係も明らかとはいえず、他方、右労働者が重喫煙者であったなど判示の事情の下においては、右死亡が労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たることが証明されたというにはいまだ不十分である。
長年にわたり粉じん作業に従事しじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者の原発性肺がんによる死亡が労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるとはいえないとされた事例
労働者災害補償保険法7条1項1号,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)12条の8第1項,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)12条の8第2項,労働基準法75条,労働基準法79条,労働基準法80条,労働基準法施行規則35条,労働基準法施行規則別表第1の2第5号,労働基準法施行規則別表第1の2第7号18,労働基準法施行規則別表第1の2第9号,じん肺法(平成10年法律第112号による改正前のもの)2条1項,じん肺法4条2項
判旨
労働者災害補償保険法上の業務起因性の判断における因果関係は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持つに足りる高度の蓋然性が証明される必要がある。本件において、当時の医学的知見に基づけば、石綿肺を除くじん肺と肺がんとの間の一般的因果関係を肯定し得る確証が得られておらず、本件の具体的な事実関係に照らしても肺がんの業務起因性を認めることはできない。
問題の所在(論点)
労働者災害補償保険法上の業務起因性を判断するための因果関係に求められる立証の程度、および当時の医学的知見に照らした「じん肺」と「肺がん」との間の相当因果関係の成否が問題となった。
規範
労働者災害補償保険法に基づく保険給付の要件となる「業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」(業務起因性)における因果関係の立証は、一点の疑いも許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る「高度の蓋然性」を証明することによる。具体的には、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持つことができることが必要である。
事件番号: 平成7(行ツ)53 / 裁判年月日: 平成11年10月12日
【結論(判旨の要点)】労働者災害補償保険法上の業務起因性が認められるためには、業務と疾病との間に相当因果関係が必要であり、その立証は特定の事実が当該結果を招来したという高度の蓋然性を証明することを要する。本件の医学的知見では、じん肺と肺がんの一般的因果関係や、本件労働者の個別的事情による因果関係を肯定するには足りず、業…
重要事実
労働者Lは、約15年間にわたり粉じん作業に従事し、じん肺(管理区分「管理三イ」)および合併症としての肺結核に罹患した。その後、Lは原発性肺がんにより死亡したが、Lには1日20本・27年間の重喫煙歴(ブリンクマン指数540)があった。遺族である上告人が遺族補償給付等を請求したが、じん肺管理区分が「管理四」未満であることを理由に不支給処分を受けた。当時の専門家会議報告書や医学的知見では、けい肺と肺がんの因果関係は示唆されるに留まり、定説となるまでには至っていなかった。
あてはめ
まず、当時の医学界において、石綿肺を除くじん肺と肺がんとの一般的因果関係については否定的な見解が支配的であり、疫学的因果関係も確証されていなかった。次に、本件の具体的な事実を検討すると、Lのじん肺管理区分は「管理三イ」に留まり、国が業務起因性を認める目安とする「管理四」に達していなかった。さらに、Lには肺がんの主要な原因とされる重度の喫煙習慣があった。これらを総合すると、粉じん作業ないしじん肺が肺がんを招来したという関係について、通常人が疑いを差し挟まない程度の確信を持つに足りる高度の蓋然性があるとは認められない。
結論
Lの肺がんによる死亡につき業務起因性を認めることはできず、不支給処分は適法である。
実務上の射程
本判決は、労災認定における因果関係の立証程度が民事上の不法行為責任(ルンバール事件判決等)と同様の「高度の蓋然性」であることを明示した。答案上は、職歴、疾患の性質、当時の医学的知見、および喫煙歴等の個人的素因を相関的に考慮して因果関係を判断する際の規範として活用できる。
事件番号: 平成6(行ツ)200 / 裁判年月日: 平成9年4月25日 / 結論: 破棄自判
配電工が、業務に従事中に、クレーンのワイヤーが切れ、ワイヤー、フック、電柱等の重量物が地上約三メートルの高さから付近に落下し、顔面に軽度の負傷をするという事故に遭った日の二日後に、非外傷性の脳血管疾患を発症し、その翌日に死亡した場合において、右配電工は、右発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、…
事件番号: 平成12(行ヒ)320 / 裁判年月日: 平成16年9月7日 / 結論: 破棄自判
ヘリコバクター・ピロリ菌感染という基礎疾患及び慢性十二指腸かいようの既往症を有する貿易会社の営業員が海外出張中にせん孔性十二指腸かいようを発症した場合につき,上記営業員が4日間にわたる国内出張後,重要な外国人顧客に同行して12日間に六つの国と地域を回り,休日もなく連日商談,接待等のため長時間の勤務を続けており,これによ…
事件番号: 昭和54(行ツ)24 / 裁判年月日: 昭和54年12月7日 / 結論: 棄却
山間僻地の発電所に勤務し右発電所と私宅間を社有車(日曜日等は社有車及びバス)を利用して通勤している者が、バスに乗り遅れ自己所有の原動機付自転車により出勤する途中受けた災害は、右の通勤方法が健に合理的な交通手段がないためのやむをえない代替方法といえるなど判示の事情のもとにおいては、使用者の支配管理下におかれているとみられ…
事件番号: 昭和57(行ツ)182 / 裁判年月日: 昭和59年5月29日 / 結論: 破棄自判
労働者が自己所有の自動車による自宅から工事現場への通勤の途上、衝突事故による災害を被つた場合に、他の公的交通機関を利用することが可能であり、右自動車の利用が特に必要でやむをえないものであつたとはいえないなど判示のような事実関係の下においては、右の形態の通勤をすることにつき事業主の意向が強く働いており、それが通勤時間及び…