配電工が、業務に従事中に、クレーンのワイヤーが切れ、ワイヤー、フック、電柱等の重量物が地上約三メートルの高さから付近に落下し、顔面に軽度の負傷をするという事故に遭った日の二日後に、非外傷性の脳血管疾患を発症し、その翌日に死亡した場合において、右配電工は、右発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、死亡当時三九歳で、健康状態に格別異常はないとみられていたところ、右事故後頭痛や食欲不振の自覚症状がありながら、厳冬期に、地上約一〇メートルの電柱上で電気供給工事等の作業に従事していたなど判示の事実関係の下においては、右配電工の死亡は、労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たる。
業務に従事中に付近に重量物が落下して顔面を負傷するという事故に遭った日の二日後に非外傷性の脳血管疾患を発症した配電工の死亡が労働者災害補償保険法にいう業務上の死亡に当たるとされた事例
労働者災害補償保険法7条1項1号,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)12条の8第l項,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)12条の8第2項,労働基準法79条,労働基準法80条
判旨
労働者が業務上の事故による精神的負荷やその後の業務遂行により、有していた基礎疾患等を自然の経過を超えて急激に悪化させ死亡した場合には、業務と死亡との間に相当因果関係が認められ、業務災害に当たる。
問題の所在(論点)
労働者が有していた素因や基礎疾患が、業務上の事故やその後の業務によって増悪し死亡に至った場合、労基法上の「業務上」の死亡(労災保険法による給付対象)として、相当因果関係が認められるか。
規範
労働者災害補償保険法上の「業務上の負傷」又は「業務上の疾病」に該当し、業務と傷病との間に相当因果関係が認められるためには、当該業務(業務上の事故を含む)が、労働者の有していた素因や基礎疾患等を、その自然の経過を超えて急激に悪化させたといえることを要する。
事件番号: 平成26(行ヒ)494 / 裁判年月日: 平成28年7月8日 / 結論: 破棄自判
労働者が,業務を一時中断して事業場外で行われた研修生の歓送迎会に途中から参加した後,当該業務を再開するため自動車を運転して事業場に戻る際に,研修生をその住居まで送る途上で発生した交通事故により死亡したことは,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,労働者災害補償保険法1条,12条の8第2項の業務上の事由による災害に当た…
重要事実
電気工D(39歳)は、家族歴から脳血管疾患の素因を有していた可能性があるが、健康状態に特段の異常はなく勤務していた。Dは死亡2日前、作業中に約30kgの金車等が至近距離に落下する事故に遭遇し、軽傷を負ったが、この事故は強い恐怖と驚愕をもたらす異常な事態であった。Dは事故後、頭痛等の不調を訴えながらも、厳冬期に高所での電気供給工事という緊張と体力を要する業務に従事し続け、作業中に脳血管疾患を発症して死亡した。
あてはめ
Dには脳血管疾患の素因があったが、39歳と若年で直近3年間に受診歴もなく、自然経過のみで血管が破綻する寸前まで進行していたとは考え難い。一方で、重量物の落下という本件事故は相当に強い精神的負荷を与える異常事態であり、その後の厳冬期における高所作業は身体的・精神的ストレスが大きい。他に発症因子が見当たらない以上、これらの業務上の負荷が、Dの基礎疾患等を自然の経過を超えて急激に悪化させたと評価するのが相当である。
結論
Dの死亡は、本件事故及びその後の業務によって基礎疾患が急激に悪化して発症したものであり、業務との間に相当因果関係が認められるため、労災保険法上の業務上の死亡に当たる。
実務上の射程
基礎疾患を有する労働者の過労死・ストレス死事案における相当因果関係判断のリーディングケース。業務が「唯一の」原因である必要はなく、自然経過を超えた増悪(共働原因)があれば足りることを示しており、過労死ライン等の判断基準と併せて答案で活用する。
事件番号: 平成7(行ツ)53 / 裁判年月日: 平成11年10月12日 / 結論: 棄却
長年にわたりセメント原料等による粉じんの飛散している事業場等においてアーク溶接作業に従事しじん肺管理区分が管理三イと認められるじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者が原発性肺がんにより死亡した場合において、粉じん作業ないしじん肺と肺がんとの間の病理学的、疫学的因果関係の存否につき専門家の見解が分かれており、けい…
事件番号: 昭和57(行ツ)182 / 裁判年月日: 昭和59年5月29日 / 結論: 破棄自判
労働者が自己所有の自動車による自宅から工事現場への通勤の途上、衝突事故による災害を被つた場合に、他の公的交通機関を利用することが可能であり、右自動車の利用が特に必要でやむをえないものであつたとはいえないなど判示のような事実関係の下においては、右の形態の通勤をすることにつき事業主の意向が強く働いており、それが通勤時間及び…
事件番号: 平成12(行ヒ)320 / 裁判年月日: 平成16年9月7日 / 結論: 破棄自判
ヘリコバクター・ピロリ菌感染という基礎疾患及び慢性十二指腸かいようの既往症を有する貿易会社の営業員が海外出張中にせん孔性十二指腸かいようを発症した場合につき,上記営業員が4日間にわたる国内出張後,重要な外国人顧客に同行して12日間に六つの国と地域を回り,休日もなく連日商談,接待等のため長時間の勤務を続けており,これによ…
事件番号: 平成7(行ツ)156 / 裁判年月日: 平成12年7月17日 / 結論: 破棄自判
支店長付きの運転手として自動車運転の業務に従事していた者が早朝支店長を迎えに行くため運転中くも膜下出血を発症した場合において、同人が右発症に至るまで相当長期間にわたり従事していた右業務は精神的緊張を伴う不規則なものであり、その労働密度は決して低くはなく、右発症の約半年前以降は一日平均の時間外労働時間が七時間を上回り、一…