ヘリコバクター・ピロリ菌感染という基礎疾患及び慢性十二指腸かいようの既往症を有する貿易会社の営業員が海外出張中にせん孔性十二指腸かいようを発症した場合につき,上記営業員が4日間にわたる国内出張後,重要な外国人顧客に同行して12日間に六つの国と地域を回り,休日もなく連日商談,接待等のため長時間の勤務を続けており,これにより上記営業員には異例に強い精神的及び肉体的な負担が掛かっていたものと考えられ,他に確たる発症因子があったことがうかがわれないなど判示の事情の下においては,同人の発症したせん孔性十二指腸かいようは業務上の疾病に当たる。
ヘリコバクター・ピロリ菌感染という基礎疾患及び慢性十二指腸かいようの既往症を有する貿易会社の営業員が海外出張中に発症したせん孔性十二指腸かいようが業務上の疾病に当たるとされた事例
労働者災害補償保険法7条1項1号,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)12条の8第1項,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)12条の8第2項,労働基準法75条1項,労働基準法(平成11年法律第160号による改正前のもの)75条2項,労働基準法施行規則35条,労働基準法施行規則別表第1の2第9号
判旨
業務と疾病との間の相当因果関係は、業務が疾病の主たる原因であることを要せず、業務が基礎疾患等をその自然の経過を超えて急激に悪化させた場合に認められる。過密な日程の海外出張等の特に過重な業務により疾病が発症した本件では、業務上の疾病に当たると解するのが相当である。
問題の所在(論点)
労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付の要件である「業務上の疾病」に関し、既往症(基礎疾患)を有する労働者が発症した場合、どのような基準で業務起因性(相当因果関係)を判断すべきか。
規範
労働者災害補償保険法上の「業務上の疾病」として相当因果関係が認められるためには、業務が疾病の絶対的な原因であることを要しない。本人の有していた基礎疾患等が、客観的にみて「特に過重な業務」の遂行により、その自然の経過を超えて急激に悪化したことによって疾病が発症したと認められる場合には、業務の遂行と疾病の発症との間に相当因果関係を肯定できる。
事件番号: 平成12(行ヒ)320 / 裁判年月日: 平成16年9月7日
【結論(判旨の要点)】労働者が基礎疾患を有していた場合であっても、業務が客観的にみて特に過重であり、それが基礎疾患を自然の経過を超えて急激に悪化させたと認められるときは、業務と疾病との間に相当因果関係が認められる。 第1 事案の概要:貿易会社の営業員である上告人(当時37歳)は、過去に十二指腸潰瘍の既往症があった。上告…
重要事実
貿易会社の営業員である上告人は、十二指腸かいようの既往症を有していた。上告人は、5日間の国内出張(1日平均13.6時間労働)直後、1日の休みを挟み、英国取引先との重要な商談を目的とする14日間で6つの国と地域を回る過密な海外出張に従事した。海外出張中、休日なく連日長時間の勤務(12日間で1日平均約13.1時間)と接待を行い、その移動中にせん孔性十二指腸かいようを発症した。原審は、既往症の治療不足等を理由に因果関係を否定していた。
あてはめ
上告人の基礎疾患は、自然の経過のみでせん孔に至るほど進行していたとは困難である。一方で、本件各出張は、重要な取引拡大のための重要な意義を有し、過密な日程、連日の長時間勤務、休日なしの接待を含むものであった。これは、通常の勤務状況に照らして異例に強い精神的・肉体的負担(特に過重な業務)といえる。他に確たる発症因子もうかがわれない以上、本件出張が基礎疾患を自然の経過を超えて急激に悪化させたと評価できる。したがって、業務と疾病の間に相当因果関係が認められる。
結論
本件疾病は業務上の疾病に該当する。したがって、不支給処分は違法であり、取り消されるべきである。
実務上の射程
基礎疾患がある事案でも、業務が「特に過重」であり、かつ「自然の経過を超えて急激に悪化」させたといえる場合には因果関係が肯定される。答案では、労働時間の長さ(過労死ライン等)だけでなく、出張の密度、業務の重要性、心理的負荷を具体的事実から拾い、それらが基礎疾患に与えた影響を論理的に接合する際に用いる。
事件番号: 平成7(行ツ)156 / 裁判年月日: 平成12年7月17日 / 結論: 破棄自判
支店長付きの運転手として自動車運転の業務に従事していた者が早朝支店長を迎えに行くため運転中くも膜下出血を発症した場合において、同人が右発症に至るまで相当長期間にわたり従事していた右業務は精神的緊張を伴う不規則なものであり、その労働密度は決して低くはなく、右発症の約半年前以降は一日平均の時間外労働時間が七時間を上回り、一…
事件番号: 平成6(行ツ)200 / 裁判年月日: 平成9年4月25日 / 結論: 破棄自判
配電工が、業務に従事中に、クレーンのワイヤーが切れ、ワイヤー、フック、電柱等の重量物が地上約三メートルの高さから付近に落下し、顔面に軽度の負傷をするという事故に遭った日の二日後に、非外傷性の脳血管疾患を発症し、その翌日に死亡した場合において、右配電工は、右発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、…
事件番号: 平成7(行ツ)53 / 裁判年月日: 平成11年10月12日 / 結論: 棄却
長年にわたりセメント原料等による粉じんの飛散している事業場等においてアーク溶接作業に従事しじん肺管理区分が管理三イと認められるじん肺及びこれに合併する肺結核にり患した労働者が原発性肺がんにより死亡した場合において、粉じん作業ないしじん肺と肺がんとの間の病理学的、疫学的因果関係の存否につき専門家の見解が分かれており、けい…
事件番号: 平成10(行ツ)107等 / 裁判年月日: 平成12年7月17日
【結論(判旨の要点)】業務上の疾病に該当するか否かの判断において、業務と発症との間に相当因果関係が認められる場合には、労働基準法上の災害として認められる。 第1 事案の概要:上告人の従業員であったAは、高血圧性脳出血を発症した。原審において、当該疾患の発症とAが従事していた業務との間には、その内容や負担に照らして相当因…