判旨
労働者が基礎疾患を有していた場合であっても、業務が客観的にみて特に過重であり、それが基礎疾患を自然の経過を超えて急激に悪化させたと認められるときは、業務と疾病との間に相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
既往症(基礎疾患)を有する労働者が発症した疾病について、過重な業務による悪化として業務起因性(相当因果関係)が認められるか。
規範
労働者災害補償保険法上の「業務上の疾病」といえるためには、業務と疾病との間に相当因果関係が必要である。基礎疾患を有する労働者の場合、①当該業務が客観的にみて特に過重な業務(異例に強い精神的・肉体的負担)といえ、かつ②他に確たる発症因子がないときは、当該業務が基礎疾患を「自然の経過を超えて急激に悪化」させたものとして、相当因果関係が肯定される。
重要事実
貿易会社の営業員である上告人(当時37歳)は、過去に十二指腸潰瘍の既往症があった。上告人は、重要顧客である英国企業の役員らに同行し、14日間で6つの国・地域を回る過密な海外出張に従事した。出張中は休日もなく、連日深夜までの接待を含む1日平均13時間超の労働に従事しており、その最中にせん孔性十二指腸潰瘍を発症した。原審は、既往症の放置等を理由に因果関係を否定した。
あてはめ
本件各出張は、取引拡大のための重要かつ過密な日程の下、12日間にわたり休日なく連日長時間の勤務を強いるものであり、通常の勤務に照らして「異例に強い精神的・肉体的負担」を伴う「特に過重な業務」であった。上告人の基礎疾患が自然経過のみでせん孔寸前まで進行していたとは認められず、他に確たる発症因子もうかがわれない。したがって、本件疾病は特に過重な業務により基礎疾患が「自然の経過を超えて急激に悪化」したものと評価できる。
結論
本件疾病は業務上の疾病に当たり、不支給決定は違法として取り消されるべきである。
事件番号: 平成12(行ヒ)320 / 裁判年月日: 平成16年9月7日 / 結論: 破棄自判
ヘリコバクター・ピロリ菌感染という基礎疾患及び慢性十二指腸かいようの既往症を有する貿易会社の営業員が海外出張中にせん孔性十二指腸かいようを発症した場合につき,上記営業員が4日間にわたる国内出張後,重要な外国人顧客に同行して12日間に六つの国と地域を回り,休日もなく連日商談,接待等のため長時間の勤務を続けており,これによ…
実務上の射程
労働者に既往症がある場合でも、直ちに因果関係を否定せず、業務の「過重性」と「自然経過による悪化の可能性」を比較衡量する枠組みとして重要である。実務上は、発症直前の労働時間や精神的負荷の強さを具体的事実から摘示し、業務が「相対的に有力な原因」となったかを論じる際に用いる。
事件番号: 平成10(行ツ)107等 / 裁判年月日: 平成12年7月17日
【結論(判旨の要点)】業務上の疾病に該当するか否かの判断において、業務と発症との間に相当因果関係が認められる場合には、労働基準法上の災害として認められる。 第1 事案の概要:上告人の従業員であったAは、高血圧性脳出血を発症した。原審において、当該疾患の発症とAが従事していた業務との間には、その内容や負担に照らして相当因…
事件番号: 平成7(行ツ)156 / 裁判年月日: 平成12年7月17日 / 結論: 破棄自判
支店長付きの運転手として自動車運転の業務に従事していた者が早朝支店長を迎えに行くため運転中くも膜下出血を発症した場合において、同人が右発症に至るまで相当長期間にわたり従事していた右業務は精神的緊張を伴う不規則なものであり、その労働密度は決して低くはなく、右発症の約半年前以降は一日平均の時間外労働時間が七時間を上回り、一…
事件番号: 平成7(行ツ)156 / 裁判年月日: 平成12年7月17日
【結論(判旨の要点)】労働者が脳動脈瘤等の基礎疾患を有していたとしても、業務による過重な精神的・身体的負荷が当該疾患を自然の経過を超えて増悪させ、くも膜下出血を発症させた場合には、業務と発症との間に相当因果関係が認められ、業務上の疾病に当たる。 第1 事案の概要:支店長専属運転手として勤務していた上告人(54歳)が、走…
事件番号: 平成6(行ツ)200 / 裁判年月日: 平成9年4月25日 / 結論: 破棄自判
配電工が、業務に従事中に、クレーンのワイヤーが切れ、ワイヤー、フック、電柱等の重量物が地上約三メートルの高さから付近に落下し、顔面に軽度の負傷をするという事故に遭った日の二日後に、非外傷性の脳血管疾患を発症し、その翌日に死亡した場合において、右配電工は、右発症の基礎となり得る素因又は疾患を有していたことは否定し難いが、…