民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例
判旨
旧優生保護法に基づき不妊手術を強いられた被害者の損害賠償請求権について、除斥期間(改正前民法724条後段)の経過による消滅を認めることが著しく正義・公平の理念に反し到底容認できない場合には、当該主張は信義則に反し権利濫用として許されない。
問題の所在(論点)
旧優生保護法に基づく強制不妊手術が違憲の立法行為にあたる場合において、改正前民法724条後段の除斥期間の主張を制限し、損害賠償請求を認めることができるか。
規範
改正前民法724条後段は不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものであり、期間経過により当然に消滅するのが原則である。しかし、除斥期間の経過による消滅を認めることが「著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない」場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる。
重要事実
精神科病院に入院中であった被上告人は、昭和35年頃、旧優生保護法の規定に基づき生殖能力を喪失させる不妊手術を受けた。同法は平成8年に改正(母体保護法へ移行)されるまで、特定の疾病や障害を有する者への差別的な施策を継続し、国は次官通知等を通じて身体拘束や欺罔等の手段を用いた手術の実施を積極的に推進していた。被上告人は平成30年に国家賠償請求を提訴したが、国は20年の除斥期間が経過したとして請求権の消滅を主張した。
あてはめ
まず、本件規定は憲法13条・14条1項に違反し、立法行為は国賠法上違法である。次に、本件では、(1)国家が長期間にわたり重大な人権侵害を政策として実施し、国会による補償措置も不十分であったという加害行為の極めて重大な性質、(2)被害者の多くが権利行使に制約のある立場にあり、かつ法が合憲と推測される中で提訴を期待することが極めて困難であったこと、(3)立法という性質上、時の経過による証拠散逸等の弊害が少ないことを指摘できる。これらの事情を総合すると、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定という除斥期間の趣旨は妥当せず、期間経過による消滅を認めることは著しく正義・公平に反する。
結論
被告(国)による除斥期間の主張は信義則に反し、権利の濫用として許されない。したがって、期間経過を理由とする請求権の消滅は認められず、国の損害賠償責任が認められる。
実務上の射程
除斥期間が画一的に適用されるという従来の判例法理を変更し、信義則・権利濫用による修正の可能性を認めた画期的判決。特に国権による重大かつ明白な人権侵害が生じた事案において、被害者の権利行使が困難であった事情を重視して除斥期間の適用を排除する際の指針となる。
事件番号: 令和5(オ)1341 / 裁判年月日: 令和6年7月3日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】旧優生保護法に基づく強制不妊手術による国家賠償請求権について、除斥期間(改正前民法724条後段)の経過による消滅を認めることが著しく正義・公平の理念に反し到底容認できない場合には、裁判所は、同条に基づく主張を信義則違反または権利濫用として拒絶できる。 第1 事案の概要:上告人らは旧優生保護法に基づ…