不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から六箇月内に右不法行為による損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法一五八条の法意に照らし、同法七二四条後段の効果は生じない。
不法行為を原因として心神喪失の常況にある被害者の損害賠償請求権と民法七二四条後段の除斥期間
民法158条,民法724条
判旨
不法行為による損害賠償請求権の除斥期間(旧民法724条後段)は原則として画一的に適用されるが、被害者が当該不法行為により心神喪失の常況にあり法定代理人もいなかった等の特段の事情がある場合には、その効果が制限される。
問題の所在(論点)
不法行為から20年を経過した後に損害賠償請求がなされた場合において、被害者が当該不法行為によって心神喪失の状態にあり法定代理人も不在であったときに、旧民法724条後段(除斥期間)の適用を制限できるか。
規範
旧民法724条後段は除斥期間を定めたものであり、裁判所は職権で適用すべきであって、その主張が信義則違反や権利濫用となる余地はないのが原則である。しかし、不法行為を原因として被害者が心神喪失の常況に陥り、かつ法定代理人を有しなかった場合、権利行使が客観的に不可能であるにもかかわらず加害者が賠償義務を免れることは、著しく正義・公平に反する。したがって、(1)不法行為から20年経過前6か月以内に、(2)当該不法行為を原因として心神喪失の常況にあり、(3)法定代理人を有しなかった場合において、(4)後見人就職等から6か月以内に権利行使をした等の特段の事情があるときは、民法158条の法意に照らし、除斥期間の効果は生じない。
重要事実
上告人A1は、昭和27年に実施された痘そうの集団接種(本件接種)を受けた直後から痙攣・発熱を発症し、重度の精神・知能・運動障害を伴う寝たきり状態となった。A1は成人後も心神喪失の状態にあったが、昭和59年に禁治産宣告を受け父A2が後見人に就職するまで法定代理人がいなかった。本件訴訟は不法行為から20年以上経過した昭和49年に提起されていたが、後見人就職後の昭和59年に改めて訴訟委任がなされた。
あてはめ
A1の症状は本件接種を原因とするものであり、不法行為から20年を経過する前6か月の時点でも心神喪失の常況にあったといえる。また、その間A1には適法な法定代理人が存在しなかった。その後、禁治産宣告を受けて後見人が就職してから1か月以内に、改めて訴訟委任状を提出して損害賠償請求権を行使している。これらの事実は、民法158条の法意に照らし、除斥期間による権利消滅を認めることが正義・公平に反する「特段の事情」に該当すると評価される。
結論
A1については特段の事情が認められるため、旧民法724条後段の規定にかかわらず、損害賠償請求権は消滅しない。
実務上の射程
除斥期間が原則として「援用不要・中断なし・期間の伸長なし」の性質を持つことを前提としつつ、権利行使が不可能な被害者保護のために、民法158条(時効停止)を類推適用する形で実質的な救済を図った射程の長い判例である。改正民法161条(天災等による時効停止)や、現行法における不法行為の長期制限(20年)が時効(124条2号)と整理された点との整合性に留意して論じる。
事件番号: 平成20(受)804 / 裁判年月日: 平成21年4月28日 / 結論: 棄却
被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の…
事件番号: 昭和49(行ツ)109 / 裁判年月日: 昭和50年9月11日
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間について、民法724条後段(改正前)の20年は除斥期間であり、時効の中断(更新)や停止に関する規定は適用・類推適用されない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人に対し、不法行為(医療事故等)を原因とする損害賠償請求訴訟を提起した。しかし、当該不法行為が…