被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し,そのために相続人はその事実を知ることができず,相続人が確定しないまま上記殺害の時から20年が経過した場合において,その後相続人が確定した時から6か月内に相続人が上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは,民法160条の法意に照らし,同法724条後段の効果は生じない。 (意見がある。)
被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出したため相続人がその事実を知ることができなかった場合における上記殺害に係る不法行為に基づく損害賠償請求権と民法724条後段の除斥期間
民法160条,民法724条
判旨
加害者が被害者の死体隠匿等により相続人に死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出した場合、相続人が確定してから6か月以内に権利行使をすれば、除斥期間経過後であっても民法724条後段による権利消滅の効果は生じない。
問題の所在(論点)
加害者が被害者の死亡を隠匿したために相続人が確定しないまま不法行為から20年が経過した場合、民法724条後段(改正前)の除斥期間による消滅を認めるべきか、その制限が許されるか。
規範
不法行為による損害賠償請求権の除斥期間(民法724条後段)は、原則として期間経過により排他的に権利を消滅させる。しかし、①加害者が被害者の相続人において死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、②そのために相続人が事実を知ることができず相続人が確定しないまま20年が経過した場合において、③相続人が確定した時から6か月以内に権利を行使したなど特段の事情があるときは、民法160条(相続財産に関する時効停止)の法意に照らし、同条後段の効果は生じない。
重要事実
小学校教諭Aは、同校警備員である被告により昭和53年に殺害され、死体を被告自宅床下に隠匿された。被告は発覚を防ぐため自宅周囲に目隠しや防犯カメラを設置。Aの両親らは捜索したが手掛かりを得られず、Aの死亡を知らないまま相続人確定前の状態で20年が経過した。平成16年に被告が自首し死体が発見されたことで、原告ら(Aの弟ら)は死亡の事実を認識した。原告らは相続確定(単純承認とみなされる時期)から6か月以内に本件訴えを提起した。
あてはめ
被告は死体を床下に埋めて隠匿し、自宅周囲を要塞化して外部から遮断しており、相続人が死亡の事実を知り得ない状況を「殊更に作出」したといえる(要件①)。その結果、原告らは死亡を知らず相続人が確定しないまま20年が経過した(要件②)。死体発見により死亡を知った原告らが、その後限定承認等の熟慮期間を経て相続人が確定した時から6か月以内に提訴したことは、権利行使の「特段の事情」に該当する(要件③)。加害者が自ら権利行使を妨げる状況を作りながら除斥期間による免責を主張することは、著しく正義・公平の理念に反し、民法160条の法意から救済されるべきである。
結論
本件殺害行為に係る損害賠償請求権は、民法724条後段の規定にかかわらず、除斥期間の経過によって消滅したということはできない。
実務上の射程
除斥期間が画一的に適用されるという原則を維持しつつ、加害者の背信性が顕著な場合に「民法160条の法意」を借りて例外を認めた。同様の死体遺棄事案や、加害者が事実を積極的に隠蔽した事案における救済の論拠として重要である。
事件番号: 平成5(オ)708 / 裁判年月日: 平成10年6月12日 / 結論: その他
不法行為の被害者が不法行為の時から二〇年を経過する前六箇月内において右不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合において、その後当該被害者が禁治産宣告を受け、後見人に就職した者がその時から六箇月内に右不法行為による損害賠償請求権を行使したなど特段の事情があるときは、民法一五八条の法意に照ら…
事件番号: 昭和49(行ツ)109 / 裁判年月日: 昭和50年9月11日
【結論(判旨の要点)】不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間について、民法724条後段(改正前)の20年は除斥期間であり、時効の中断(更新)や停止に関する規定は適用・類推適用されない。 第1 事案の概要:上告人は、被上告人に対し、不法行為(医療事故等)を原因とする損害賠償請求訴訟を提起した。しかし、当該不法行為が…