民法724条にいう被害者が損害を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。
民法724条にいう被害者が損害を知った時の意義
民法724条
判旨
民法724条(改正前)の「損害及び加害者を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時を指し、容易に認識し得る状況にあるだけでは足りない。
問題の所在(論点)
不法行為による損害賠償請求権の短期消滅時効の起算点に関し、民法724条(改正前)の「損害を知った時」として、損害発生を容易に認識し得る状況にあれば足りるか、それとも現実に認識することを要するか。
規範
民法724条前段(改正前)にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者が損害の発生を「現実に認識」した時をいうと解すべきである。被害者が損害の発生を容易に認識し得る状況にあることを理由に時効の進行を認めると、被害者に損害発生の有無を調査する不当な負担を強いることになる一方、同条の趣旨は被害者が権利を認識しながら放置した場合に加害者の地位を安定させる点にあるからである。
重要事実
上告人は通信社から配信された記事により名誉を毀損されたとして損害賠償を請求した。上告人は、別の訴訟の過程で、当該通信社の加盟社である被上告新聞社にも同内容の記事が掲載されている「可能性が高いこと」を平成4年7月9日に知った。しかし、実際に記事が掲載されたことを現実に確認してはいなかった。原審は、上告人が拘置所内からでも図書館等を通じて容易に記事を入手し得たとして、同日を時効の起算点と認定した。
あてはめ
上告人は、平成4年7月9日の時点では、被上告新聞社の紙面に記事が掲載されている可能性が高いことを知ったにすぎない。本件記事が実際に掲載されたこと、すなわち不法行為に基づく損害が発生したことを「現実に認識」したとはいえない。上告人が調査により容易に記事の内容を確知し得る状況にあったとしても、そのことをもって直ちに損害を知ったものと擬制することはできない。
結論
上告人が記事掲載の事実を現実に認識したとはいえない以上、平成4年7月9日を消滅時効の起算点とすることはできず、時効は完成していない。
実務上の射程
消滅時効の起算点において、被害者の過失や認識可能性を排除し「現実の認識」を要求することを明確にした。報道による名誉毀損など、被害者が知らない間に損害が発生する事案において、被害者保護の観点から時効の進行を遅らせる強力な規範として機能する。
事件番号: 昭和48(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。