関連新聞社甲から記事の提供を受けてこれとほぼ同一内容の記事を掲載した新聞社乙に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟において,甲と乙の各掲載記事の紙面構成や見出しが一見して明らかに異なっており,乙の掲載記事には甲の掲載記事にはない記述が書き加えられており,甲が発行する新聞に掲載された記事でも乙が発行する新聞に掲載されない場合があるという判示の事情の下においては,被害者Aが乙の掲載記事に接する機会があった,又はAが他者から甲の掲載記事と同じ記事が乙の発行する新聞にも掲載されたことを知らされた等の具体的事実の立証がないのに,Aが,甲が乙に提供した記事を東京で発行する新聞に掲載したこと及び乙が九州地方で甲と同一名称の新聞を発行していることを知った時に,乙の発行する新聞に上記記事が掲載されたことを認識したとする原審の認定には,経験則違反の違法がある。
関連新聞社から記事の提供を受けてこれとほぼ同一内容の記事を掲載した新聞社に対する名誉毀損に基づく損害賠償請求訴訟において被害者が同記事の掲載を認識したとする認定に経験則違反の違法があるとされた事例
民法724条,民訴法247条
判旨
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法724条前段)における「損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時を指す。新聞記事による名誉毀損の場合、他地域での同種記事の存在や発行主体の知得のみをもって、現実に当該記事による損害を認識したと推認することは経験則に反し許されない。
問題の所在(論点)
他社による同種内容の報道を知り、かつ当該地域における新聞発行主体を知ったことをもって、直ちに民法724条前段の「損害及び加害者を知った時」に当たるといえるか。
規範
民法724条前段にいう被害者が「損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を現実に認識した時をいう。単に損害発生の可能性を知っただけでは足りず、具体的・現実的な認識が必要である。
重要事実
上告人は殺人未遂事件等の被疑者として報道された際、D新聞東京本社が発行した記事(東京本社記事)の存在と、九州地方では被上告人がD新聞を発行している事実を平成4年11月までに知った。しかし、被上告人が発行した本件記事は、東京本社記事と見出しや内容(売人の可能性の示唆等)が異なり、より悪質な印象を与えるものであった。また、東京本社の記事が必ずしも被上告人の紙面に掲載されるとは限らない状況にあった。上告人が本件記事自体を閲読した等の具体的立証がない中で、原審は平成4年11月を時効の起算点と認定した。
あてはめ
本件では、本件記事と東京本社記事とで紙面構成、見出し、記事内容に看過し得ない相違があり、一般読者に与える印象も異なっていた。上告人が東京本社記事の存在等を知っていたとしても、内容の異なる本件記事の掲載を現実に認識したとは限らない。また、両紙の掲載記事が常に同一ではない以上、具体的記事に接した事実等の立証がない限り、他地域での報道等の事実から本件記事による名誉毀損の発生を現実に認識したと認定することは経験則に反する。
結論
上告人が本件記事による損害の発生を現実に認識したとは認められず、平成4年11月を起算点として消滅時効が完成したということはできない。
実務上の射程
消滅時効の起算点における「現実の認識」の厳格性を明示した判例である。特に名誉毀損事案において、類似の報道が他媒体でなされている事実から被害者の認識を擬制することを否定しており、答案上は、時効の援用に対する再抗弁(起算点の後ろ倒し)を論じる際の規範として活用できる。
事件番号: 昭和48(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。