不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。
不法行為による受傷の後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が右後遺症の顕在化した時から進行するものとされた事例
民法724条
判旨
不法行為による後遺症の損害賠償請求権の消滅時効は、後遺症が顕在化した時に、社会通念上その発生を予見可能であった損害について進行を開始する。
問題の所在(論点)
不法行為による後遺症に基づく損害賠償請求権において、民法724条前段(現724条1号)の消滅時効の起算点となる「被害者が損害を知った時」をいつと解すべきか。
規範
不法行為の被害者が受傷から相当期間経過後に後遺症を発症した場合、民法724条(改正前)にいう「損害を知った時」とは、後遺症が顕在化した時を指す。この際、その当時において発生を予見することが社会通念上可能であった損害については、すべて被害者において認識があったものとして、消滅時効が進行する。
重要事実
上告人は交通事故により受傷し、その後、本件後遺症が現れた。原審の認定によれば、当該後遺症は遅くとも昭和41年2月12日より以前に顕在化しており、その後の症状は徐々に軽快したものの、悪化することはなかった。上告人は、昭和44年2月12日に、後遺症に基づく逸失利益および慰謝料の支払いを求めて本訴を提起した。
あてはめ
上告人の後遺症は昭和41年2月12日以前に顕在化しており、その後の悪化も認められない。そうであれば、上告人は同日の時点で、後遺症に基づく逸失利益や精神的苦痛といった損害の発生を予見し、その賠償を請求することが社会通念上可能であったといえる。したがって、同日には「損害を知った」ものとして消滅時効が進行を開始したと解される。
結論
本件損害賠償請求権の消滅時効は、遅くとも昭和41年2月12日から進行しており、昭和44年2月12日の提訴時には既に3年の消滅時効が完成している。
実務上の射程
後遺症に関する時効起算点を「顕在化時」とし、予見可能な損害を一括して時効にかける実務を確立した判例である。答案上は、症状固定時や顕在化時を指摘し、その時点で将来の損害を含めた「予見可能性」を検討して起算点を確定させる際に用いる。
事件番号: 昭和40(オ)1232 / 裁判年月日: 昭和42年7月18日 / 結論: 棄却
不法行為によつて受傷した被害者が、その受傷について、相当期間経過後に、受傷当時には医学的に通常予想しえなかつた治療が必要となり、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたつた等原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、後日その治療を受けるまでは、右治療に要した費用について民法第七二四条の消滅時効は…