不法行為によつて受傷した被害者が、その受傷について、相当期間経過後に、受傷当時には医学的に通常予想しえなかつた治療が必要となり、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたつた等原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、後日その治療を受けるまでは、右治療に要した費用について民法第七二四条の消滅時効は進行しない。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行しないとされた事例
民法724条
判旨
不法行為による受傷から相当期間経過後に、当初予想し得なかった後遺症による治療費が発生した場合、その治療費についての消滅時効は、当該治療を受けるようになるまで進行しない。
問題の所在(論点)
不法行為による受傷の事実を知っていた場合、その後に発生した予見困難な後遺症の治療費についても、受傷時から消滅時効(民法724条前段)が進行するか。
規範
民法724条(改正前)の消滅時効の起算点に関し、被害者が損害の発生を知った以上、その損害と牽連一体をなす損害で当時発生を予見可能であったものは、その知った時から時効が進行する。しかし、受傷時から相当期間経過後に後遺症が現れ、受傷時に医学的に通常予想し得なかった治療が必要となった場合、その費用についての損害賠償請求権は、当該治療を受けるまでは時効が進行しないと解すべきである。
重要事実
被害者(被上告人)は、加害行為により受傷し、前訴において最終口頭弁論期日までに支出した治療費の賠償を求めた。その後、受傷による後遺症(右足の内反足)が現れ、再手術(植皮手術)を受けることを余儀なくされた。この手術は、受傷当時はもとより後遺症の発現後も、医学的に有効な治療法として必ずしも異論がなかったわけではない特殊なものであった。被害者は、この再手術に要した費用の賠償を求めて本件訴訟を提起したが、加害者は消滅時効を援用した。
あてはめ
本件では、受傷から相当期間が経過した後に後遺症が現れており、その治療法である植皮手術も受傷時には医学的に通常予想し得なかったものである。このような状況下では、被害者は当時、必要性の判明しない治療費を損害として請求する術がなく、権利行使が事実上不可能であったといえる。したがって、損害を知った時に時効が開始するという同条の趣旨に照らせば、現実に治療を受けるまでは時効の進行を認めるべきではない。
結論
後遺症にかかる治療費の支出時(治療を受けるようになるまで)を起算点とすべきであり、本件請求権について消滅時効は完成していない。
実務上の射程
不法行為の損害賠償における消滅時効の起算点(「損害及び加害者を知った時」)の解釈として、後発損害の予見可能性を基準に時効の進行を限定する重要な判例である。答案上は、全部請求か一部請求かの既判力の問題(明示的一部請求)と併せて論じられることが多い。
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