一、登記官吏の過失により虚偽の所有権移転登記がされ、これを信頼して土地を買い受け、その地上に建物を建築したものが、右事実関係を知り自己が右土地の所有権を取得しえないことを知つたときは、その時に、右建物を収去することによつて生ずる損害についてもその損害および加害者を知つたものと解するのが相当である。 二、不法行為に基づく損害賠償債権の一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴を提起した場合、訴提起による消滅時効中断の効力はその一部の範囲においてのみ生じ、残部には及ばないと解するのが相当である。
一、民法第七二四条の「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」にあたるとされた事例 二、一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴を提起した場合と右残部についての消滅時効中断の効力
民法724条,民法147条1号,国家賠償法1条,国家賠償法4条
判旨
不法行為の短期消滅時効は、損害及び加害行為が不法行為であることを知り、かつ当時発生を予見可能であった損害も含めてその認識があった時から進行する。また、一個の債権の一部のみを明示して訴えを提起した場合、時効中断の効力は当該一部の範囲に限定される。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(旧民法724条)に関し、①損害の認識に裁判所の判断が必要か、②予見可能な将来の損害について時効はいつから進行するか、③一部請求による時効中断の効力の範囲が問題となる。
規範
1. 民法724条(旧法)にいう「損害及び加害者を知った時」とは、被害者が加害行為の行なわれた状況を認識することにより、加害行為が不法行為であることをあわせ知った時を指す。2. 当時その損害との関連において当然に発生を予見することが可能であった損害については、その予見可能性をもって認識があったものと解し、時効は一律に進行を始める。3. 数量的一部請求を明示して提訴した場合、時効中断の効力は請求した一部の範囲にのみ生じ、残部には及ばない。
重要事実
登記官吏が偽造された登記済証を過失により看過して所有権移転登記を受理したため、これを信頼して土地を買い受け建物を建築した上告人が、土地の所有権を取得できず建物を収去せざるを得なくなった。上告人は、当初土地代金相当の損害賠償のみを求めて提訴したが、提訴から3年経過後に建物収去による損害についても請求を拡張した。被上告人は、拡張部分について消滅時効を援用した。
あてはめ
①上告人は自ら調査し事実関係を認識して本訴を提起している以上、特段の裁判上の判断を待つまでもなく、提訴時には不法行為の事実を知っていたといえる。②土地所有権を取得できない以上、地上建物の収去義務が生じることは当然であり、土地代金相当の損害を知った当時、建物収去による損害も予見可能であったといえる。よって、収去による損害についても提訴時から時効が進行する。③上告人は当初一部の損害に限り請求し、残部をあえて請求しなかったのであるから、時効中断の効力は拡張部分には及ばず、拡張時には既に3年の時効期間が経過している。
結論
建物収去による損害賠償請求権は、本訴提起時に消滅時効が進行し始め、拡張時には既に時効が完成している。したがって、拡張部分の請求は認められない。
実務上の射程
消滅時効の起算点における「知った」の定義と、予見可能な後発損害の扱いを示す重要判例である。また、一部請求における時効中断の範囲について限定説(判例法理)を維持しており、実務上、残部の時効完成を防ぐためには催告や全額請求の検討が必要となる。
事件番号: 昭和37(オ)949 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
不動産所有者が朝鮮から内地に帰還して不動産管理人に対し当該不動産の返還を請求したときに右管理人がその不動産の収益を計算して所有者に支払うとの約定のあつた場合には、右不動産収益返還請求権の消滅時効は、前示返還請求のなされた時から進行する。
事件番号: 昭和38(オ)447 / 裁判年月日: 昭和42年6月29日 / 結論: 破棄差戻
一 上告人が昭和二四年九月被上告人に対し、上告人製造にかかる低乾中油を加工精製したD油を毎月一〇〇屯供給する旨を約した契約につき、上告人が同年一一月から翌二五年五月までの間に合計一一五屯余のD油を供給したところ、昭和二五年二月頃右契約当事者が話し合つた際にも、上告人が履行の言訳けに終始したところ、当時上告人はなお右D油…