一、登記申請書に添付されていた登記済証が偽造であつて、その作成日として記載されている日当時官制上存在しなかつた登記所名が記載され、同庁印が押捺されているにもかかわらず、登記官吏がこれを看過してその申請にかかる所有権移転登記手続をした場合には、右登記官吏に、登記申請書類を調査すべき義務を怠つた過失があるというべきである。 二、登記官吏の右過失によつて、無効な所有権移転登記が経由された場合には、右過失と右登記を信頼して該不動産を買い受けた者がその所有権を取得できなかつたために被つた損害との間には、相当因果関係があるというべきである。
一、偽造の登記済証に基づく登記申請を受理するについて登記官吏に過失があるとされた事例 二、登記官吏の過失によつて無効な所有権移転登記が経由された場合に右過失と右登記を信頼して該不動産を買い受けた者が被つた損害との間に相当因果関係があるとされた事例
国家賠償法1条1項,不動産登記法施行細則47条,民法709条,民法416条
判旨
登記官吏が職務上の注意義務を怠り、不真正な登記を経由させた場合、その登記を真実と信頼して取引を行い損害を被った者に対し、登記官吏の違法行為と損害との間には相当因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
登記官吏が登記申請書類の不備を看過して無効な登記を完了させた場合、その登記を信頼して取引した第三者が被った損害について、国家賠償法上の相当因果関係(または登記官吏の違法行為と損害との因果関係)が認められるか。
規範
不動産登記に公信力はないが、取引において登記簿の記載を信頼するのが通常であり、名義人を順次遡って調査することは至難である。したがって、登記官吏の違法行為により無効な登記が生じ、これを信頼して無権利者と取引し代金支払等の損害を被った場合、当該違法行為がなければ損害は生じなかったといえるから、両者の間には通常生ずべき相当因果関係が認められる。
重要事実
訴外Gらは、土地所有者Hの意思に基づかず登記済証等を偽造し、訴外Iに交付した。Iはこれを用いて登記申請を行い、登記官吏は、当時官制上存在しない名称が記載された登記済証であることを見落とすなどの職務懈怠により、I名義の所有権移転登記を完了させた。被上告人らは、この登記を信頼してIから土地を買い受け、代金を支払ったが、所有権を取得できず損害を被った。
あてはめ
本件登記済証には、当時存在しない「東京区裁判所麹町出張所」の名称や印影が使用されており、所轄の「東京司法事務局麹町出張所」と異なることは容易に判別可能であった。登記官吏がかかる不真正な書類を受理したことは調査義務違反(職務懈怠)にあたる。被上告人らが不真正な登記を信頼して売買代金を支払った損害は、登記官吏が適切に審査し不真正な登記を阻止していれば発生しなかったものである。したがって、登記の公信力の欠如を問わず、登記への信頼を媒介とした損害と職務上の違法行為との間には相当因果関係があるといえる。
結論
登記官吏の違法行為と被上告人らの損害との間には相当因果関係が認められ、上告人は賠償責任を免れない。
実務上の射程
登記官吏の形式的審査権限の限界を超えた注意義務違反を前提としつつ、不動産取引における登記への事実上の信頼を法的保護の対象に取り込む法理である。国家賠償法1条1項の因果関係を論じる際、公信力がないことを理由とする因果関係切断の反論を排斥するために用いる。
事件番号: 昭和48(オ)293 / 裁判年月日: 昭和50年11月28日 / 結論: 棄却
司法書士は、登記義務者の代理人と称する者の依頼により登記申請をするにあたり、依頼者の代理権の存在を疑うに足りる事情がある場合には、登記義務者本人について代理権授与の有無を確かめ、不正な登記がされることがないように注意を払う義務がある。