一、処分禁止の仮処分の執行された不動産に対する滞納処分による公売落札を原因として所有権移転登記をするに際し、登記官吏が職権によつて右仮処分の記入登記を抹消したことが違法であつたとしても、それが司法省民事局長回答に基づく従来の取扱例に従つてなされたものである以上、右登記官吏に故意または過失があつたとはいえない。 二、右の場合において、学説および行政実務上の見解が激しく対立して容易にその解決を期待しえない事情にあつたものである以上、右登記官吏の上司である法務省民事局長が右回答を改めず、これを維持して来たとしても、同局長に故意または過失があつたとはいえない。
一、司法省民事局長回答に従つてした登記官吏の職権による登記抹消行為が違法とされた場合と右登記官吏の故意、過失の有無 二、右の場合において、右回答を改めなかつた法務省民事局長に故意または過失が認められるか
国家賠償法1条
判旨
公務員による職務執行上の行為が国家賠償法1条1項の責任を負うためには、当該公務員に職務義務の懈怠による故意または過失が認められることを要する。
問題の所在(論点)
登記官が公売に伴い仮処分の登記を職権抹消した行為について、国家賠償法1条1項にいう公務員の「故意または過失」が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項に基づく国の責任は、公務員がその職務を行うについて、故意または過失によって違法に他人に損害を加えた場合にのみ認められる。具体的には、公務員の職務義務の懈怠が認められるか否かが、過失の有無を判断する基準となる。
重要事実
旭川地方法務局名寄支局の登記官が、滞納処分による公売落札に伴い、訴外Dのために所有権移転登記を行った。その際、登記官は職権によって本件処分禁止仮処分の記入登記を抹消した。上告人は、この抹消行為により損害を被ったとして国家賠償を請求した。
あてはめ
本件において、登記官およびその上司である法務省民事局長は、滞納処分による公売落札に伴う所有権移転登記の際、付随して職権で仮処分登記を抹消した。原審の確定した事実関係によれば、この一連の行為において、当該公務員らに職務義務の懈怠は認められない。したがって、国家賠償法上の責任要件である故意または過失の存在は否定される。
結論
登記官らの行為に職務義務の懈怠はなく、故意または過失は認められないため、国は国家賠償法1条1項による責任を負わない。
実務上の射程
公務員の過失の判断枠組みとして「職務義務の懈怠」という概念を用いた基本的な裁判例である。登記実務上、当時の解釈や通達に従った処理に合理性がある場合には、結果的に不当な抹消であっても過失が否定される可能性を示唆している。
事件番号: 昭和31(オ)486 / 裁判年月日: 昭和33年10月7日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公務員が事務処理において第三者の権利を侵害したとしても、当時の証拠資料(公正証書等)に基づき所有権の帰属を信じたことに相当な理由がある場合には、過失を否定し、国家賠償責任を免れる。 第1 事案の概要:上告人は、金沢市の事務担当者が本件家屋の所有権を誤認し、真の所有者である上告人ではなく第三者(D)…