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印鑑証明の過誤があつても、市は損害賠償責任が生じないとされた事例
国家賠償法1条
判旨
公務員が印鑑証明の交付事務において過誤を犯した場合であっても、当該過誤と、無権代理行為による抵当権設定契約の無効に起因する貸付金の回収不能との間に相当因果関係がないときは、国家賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
公務員の印鑑証明交付における過誤と、無権代理によって抵当権設定契約が無効となったことに起因する貸付金回収不能の損害との間に、相当因果関係が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求が認められるためには、公務員の職務上の義務違反(違法性)と発生した損害との間に相当因果関係が存在することが必要である。
重要事実
上告人(債権者)は、外見上の代理人Dとの間で、E所有の不動産を担保とする抵当権設定契約を締結し、Eを主債務者、Dを連帯保証人として貸し付けを行った。しかし、DはEから代理権を与えられておらず、抵当権設定契約は無効となった。その結果、上告人は貸付金を回収することができなくなった。上告人は、被上告人(地方公共団体)の吏員が印鑑証明を交付する際に過誤を犯したことが損害の原因であるとして、国家賠償を求めた。
あてはめ
本件における損害は、DがEの代理権を有していなかったために抵当権設定契約が無効となり、その結果として貸付金の回収が不能になったことにより生じたものである。被上告人の吏員が印鑑証明をなすに際して犯した過誤は、右の損害発生の直接の原因となった「無権代理による無効」という事態とは切り離された事象であり、当該過誤と損害との間に法的な因果関係を見出すことはできない。
結論
吏員の過誤と損害の発生には関係がないため、国家賠償請求は棄却される。
実務上の射程
公務員の不法行為が認定される場合であっても、損害発生の主たる要因が私人間における無権代理等の別個の法的事象にある場合には、相当因果関係が否定されることを示す事例である。答案上は、職務行為の違法性だけでなく、損害との結びつきを慎重に検討する際の準拠となる。
事件番号: 昭和39(オ)1252 / 裁判年月日: 昭和41年10月21日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和42(オ)53 / 裁判年月日: 昭和42年10月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】印鑑証明事務を取り扱う公務員が、偽造印鑑による印影であることを見抜けず、かつ本人を詐称する者を真実の本人と信じたことに無理がない場合には、国家賠償法1条1項の過失は否定される。 第1 事案の概要:公務員Eは、D名義の印鑑証明書の発行事務において、Dを詐称するFから申請を受けた。その際、Eは提示され…