印鑑証明書の交付のさいの印影および人物の同一性の確認について市吏員に過失がないとされた事例
判旨
印鑑証明事務を取り扱う公務員が、偽造印鑑による印影であることを見抜けず、かつ本人を詐称する者を真実の本人と信じたことに無理がない場合には、国家賠償法1条1項の過失は否定される。
問題の所在(論点)
印鑑証明事務を担当する公務員が、偽造印鑑を看過し、かつ本人を詐称する者を本人と誤信して証明書を交付した場合において、国家賠償法1条1項の過失が認められるか。
規範
国家賠償法1条1項にいう「過失」とは、公務員が職務上尽くすべき注意義務を怠ることを指す。印鑑証明事務においては、提出された印影の真正性および申請人の本人確認について、当時の技術水準や具体的な状況に照らして合理的とされる確認行為を行っていれば、注意義務違反は認められない。
重要事実
公務員Eは、D名義の印鑑証明書の発行事務において、Dを詐称するFから申請を受けた。その際、Eは提示された印影が偽造されたものであることを見抜けず、また、FをD本人であると誤認して証明書を交付した。これに対し、被害を被った上告人が、Eの本人確認等の職務行為に過失があったとして国家賠償を請求した。
あてはめ
まず、印影の真正について、Eが偽造印鑑によるものであることを看過した点については、当時の状況から見て偽造を見抜くことが困難であったと評価され、過失は否定される。次に、本人確認について、EはFをD本人と信じたが、当時の確認行為の内容に照らせば、詐称を見抜けなかったとしても無理からぬ事情があったといえる。したがって、Eがした一連の確認行為に職務上の注意義務違反があったとはいえない。
結論
公務員Eに過失は認められず、国家賠償請求は棄却される。
実務上の射程
印鑑証明事務における公務員の注意義務の程度を示した事例判決である。本人確認書類の提示や印影の照合において、当時の一般的・標準的な確認手順を履践していれば、結果として誤りがあったとしても直ちに過失とはならないことを示唆しており、行政事務の過失認定における判断枠組みとして参考になる。
事件番号: 昭和42(オ)771 / 裁判年月日: 昭和43年11月5日 / 結論: 棄却
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